理念の時代を生きる186号

理念の時代を生きる186号三月理念実践会

一日一語

三月二日 教育とは流水に文字を書くように果てしない業である。だがそれを巌壁に刻むような真剣さで取り組まねばならぬ。

三月四日 真の教育は、何よりもまず教師自身が、自らの「心願」を立てることから始まる。

三月十四日 自分を育てるものは、結局自分以外にはない。

 

明治維新と敗戦を取り上げ、歴史を俯瞰しながら日本人の意識の深淵と不覚を指摘しています。(悦司)

■幻の講話 第五巻 第二十五講・森信三

『第一の開国と第二の開国』

  1. 歴史的な問題を考える場合には、いたずらに眼前の波瀾の一高一低によって心を動揺せしめず、静かに世界史の興亡起伏を大観しつつ、自らの民族の歩みに対して、いかに少なくとも最低一世紀程度の単位を基準として、その歩みを慎思(しんし)し、省察する必要があると思うのです。204
  2. 今日は『第一の開国と第二の開国』と題して、わが国の明治維新、ならびに今回の敗戦を契機とする変革の意義について考えてみたいと思います。205
  3. わが国の明治維新について考える時、いつも痛感せしめられるのは、結論的にいって、まったく『奇蹟』という他ないというところであります。205
  4. どのような点が奇蹟的かというに、その一つは開国と攘夷という、まさに正逆の主張が幕府側と薩長側において行われ、しかも国際的にはもはや国を開く他ない時点に差し掛かっていながら、それが民族における二大勢力によって互いに抗争せられたという点であります。205
  5. 重要な点は、国際情勢という点では宮廷方よりも幕府のほうが、海外情勢が耳に入りやすかった。さらに直接外国の使者と折衝する立場に置かれている故、宮廷側よりもはるかに世界情勢に通じていた幕府側が、何故最後には尊攘派の勢力に倒れたのでしょうか。
  6. 根本的には幕藩体制の矛盾からくる経済状態の逼迫(ひっぱく)ということもありましょうが、尊攘派の立場は、民族の主体性の立場に立っていたからでありましょう。そしてこの事は後に尊攘派がひとたび天下をとるや、直ちに開国論に一転したことによっても明らかです。
  7. かくして明治維新の変革において、われわれとして最も注意すべき点は、民族の主体性に立った変革という点であり、この点が後の第二の開国としての今次の敗戦を契機とする変革と比べて根本的に異なる点と思うのであります。
  8. 勝海舟や山岡鉄舟などの人物が、国を内乱に陥れるに忍びずして、江戸城の無血開城にまで事をはこんだ英知を、背後において支えていたのは幕府側にも消極的、受動的ではあったにしても、やはり民族としての本能的な英知が働いていたというべきでしょう。
  9. 明治政府のその後の歩みは、ご承知のように世界史上にも類例の少ないほどに着々として、諸般の内政の改革と共に対外的にも、日清・日露の二大戦役によってとにもかくにも戦勝し、有色人種がはじめて白人国家に勝利を占めた、まさに世界史上空前の事例として全世界の有色人種から高く評価されたのであります。
  10. 一方、今回の敗戦に伴う変革は、これを結果的に見ましたら一種の開国ともいえましょうが、それが敗戦を契機とするものである以上、民族の主体的行動としての開国とは言い難いのであります。しかしそれが主体的でないにも拘わらず、実質的には一種の開国だったという点からして、今日改めて深く検討を要するものがあると思います。
  11. 敗戦の深因について考えるとそのうち最大なるものは、当時の軍閥の横暴によって実力過信に陥った点からくる惨敗という他ないでしょう。日露戦争勝利で心に弛緩を生じ、自己や自国の実力に対して冷静な判断を下すことなく無謀な大戦に乗り出し、後に考えれば、如何なる角度から見ても到底勝ち目のある戦争ではなかったのです。
  12. 特に至極遺憾なことは、その前半の段階において、中国と事をかまえ、深く内部に侵攻し、多くの無辜の人民を殺傷した点であり、深省せずにはいられないのであります。しかもそれは中国民衆の自覚的抵抗の根強さによって泥沼に陥り、敗戦の一因は実にこの点に基因するといってよいでしょう。
  13. 遺憾なことにはその占領政策の多くは実は我々自身から見ても、そうした改革が必要だと思われるような事柄が多く、誠に皮肉千万ながらその意図と立場は正逆でありながら、現実政策としてはその表裏・凹凸が互いに結合するという結果となったのであります。
  14. 現在までに行われた『第二の開国』は、『第一の開国』とは正逆に、まったく非主体的な変革だったと言ってよいのであります。四分の一世紀を経過した現在になってみますと、さすがに近頃ではこの点に対する反省を自覚が始まりかけたと言ってよいかと思われるのであります。
  15. 我らの民族は戦後を『非主体的変革』と『生産力の急上昇』によって醸し出された戦後文化の美酒に酔い痴れてきたことに対してようやく覚醒の微光が差しつつあるようであります。そして自国の置かれている地位は眼前の物的繁栄の華やかさとは正逆に、実に冷厳極まりない国際情勢の唯中に置かれているという感慨の切実なるものがあるわけであります。

安倍晋三回顧録 橋本五郎・尾山宏(聞き手・構成)北村滋(監修)

なぜ安倍晋三回顧録なのか  「歴史の法廷」への陳述書

  • 安倍さんに「回顧録」出版のためのインタビューを申し入れたのは、首相辞任を表明される1カ月半前の20年7月10日でした。お願いした理由は、通算の首相在任期間で133年の憲政史上最長の政権になり得たのか、その理由と政策決定の舞台裏、煩悶と孤独の日々をご自身に語ってもらいたいと思ったからです。欧米の指導者は大統領や首相を辞めると、時を経ずに回顧録を出版します。
  • しかし、日本の場合は違います。中曽根康弘氏でさえ、本格的回顧録は退陣後10年近く経ってからでした。関係者に迷惑をかけてはいけないという配慮や、自らを誇ることは慎もうという日本人的な美徳の現れかもしれません。
  • それでも、退任後できるだけ早く振り返ってもらおうと思った第一の理由は、記憶が生々しい状態でより真実に近づくことができる。第二の理由は時が経てば意識しなくても正当化や美化の度合いが強くなるのが普通です。それを相対化できるのは「回顧録」を関係者に晒すことです。
  • 「安倍晋三回顧録」は22年1月にほぼ完成まもなく出版の運びとなっていました。しかし安倍さんからしばらく待ってほしいと「待った」がかかりました。(中略)安倍さんの四十九日が明けてから安倍昭恵夫人にお願いに行きました。安倍さんの机の上に「遺品」のように置かれているところを見つけたそうで、快諾していただきました。(23年2月10日初版発売

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★回顧録は素晴らしい企画だと思います。文字通り総理退任後すぐ取り込むこと、同時に監修を他者に委ねることでこの回顧録からを総理としての苦衷も決断も描き出される。そして安倍総理が政治家、国のリーダーとして何を目指したかが自らの口からはっきりと語られています。

★私は近代の政治家では李登輝元総統を最も尊敬しています。蒋介石の息子蒋経国から登用された内省人李登輝が国民党内部から民主化を推進した過程こそが志・使命を全うした政治家の生き方だと思っているからです。李登輝の著書にほとんど目を通しました。内部の反発、抵抗を受けながらも民主化にむけてしたたかに推進する原動力こそ李登輝の志であり使命感なのです。

★この回顧録を読むとまさに安倍総理の秘められた志・使命感を読み取ることができるとお思います。国民はともすれば目先の事象に目を奪われあれこれ批判するものですが、日本国民として国の将来や望ましい姿を考えれば、単に批判だけ続けるメディアや政党の愚かしさも明らかです。

★今回、安倍総理が接してきた海外の首脳たちの姿を取り上げます。外交に力を入れた安倍総理だからこそ出来た、私たちが決して知ることができない各国の首脳の考え方と国の方向をみることができます。プーチンのことも勿論取り上げていますが、そこはお読みになってください。5月からの私が主催する理念実践会でも取り上げてまいります。是非手にとってお読みいただきたいものです。(悦司)

 

■第六章 海外首脳たちのこと・オバマ、トランプ、メルケル、習近平、プーチン

★オバマ・トランプ

  • 第二次内閣以降、会談した米国の大統領はオバマ。トランプの両氏でしたが。

安倍・オバマとは仕事の話しかしませんでした。私がジョークを言っても、すぐ本題に戻す。雑談に応じない。仕事の話も非常に細かい。正直、友達みたいな関係を築くのは難しいタイプです。仕事をする上では問題はありません。オバマにはよく。「シンゾウはそう言うが、本当にそのとうりになるのか」と言われました。日本に対する不信感みたいなものがありました。民主党政権の振る舞いが疑心暗鬼にさせていたのだと思います。オバマは本当は「トラストミー」と言った鳩山由紀夫首相に期待していたそうです。同じリベラルだから。それだけに、裏切られたという思いが強かったのでしょう。

  • トランプ氏は極めて特異な大統領でしたが、過去にあった政治指導者にこういうタイプの人はいましたか。

安倍・発想の仕方が従来の政治家とは異なる。ビジネス界での成功体験を国際政治に持ち込もうとした。過去の米国の大統領は「自分は西側世界のリーダーだ」という認識と責任感を持っていた。中略。私は「国際社会の安全は米国の存在で保たれている」とトランプには」繰り返し言いました。米国の国家安全保障会議(NSC)の面々と私は同じ考えだったので、NSCの事務方は私を利用してトランプの考え方を何とか改めさせようとすらしました。

  • トランプ氏とは定期的な会談を約束していたのですか。

安倍・約束事はありません。ただ、お互い同じ場所に行ったら、とにかく会おう、という話をよくしていました。それは非常に重要なことです。中略。トランプは時々「この政策で大丈夫だろうか」と、時に私の意見を聞こうとして電話してきました。私が外国の首脳の中で最初に勝利を祝う電話をし、すぐに会いに行ったことが大きいとおもいます。電話会談もオバマの場合15分から30分程度と短めでした。トランプとは平気で1時間はなす。首脳同士が信頼関係を構築するうえで大切なのは、お互いが心を開くようにすることでしょう。総じて日米はいい関係を築けたとおもいます。

★習近平

Q安倍さんが最も警戒してきた習近平首席は、強国路線を進め毛沢東に並ぶ存在を目指しているようです。

安倍・私の任期中、習近平は段々自身を深めいったとおもいます。10年の世界第二位の経済大国となって以降、より強硬姿勢となり、南シナ海の軍事拠点化し、香港市民から自由を奪い次は台湾を狙っている。就任当時は事前に用意した発言要領を読むだけだった。最初の米中首脳会談も下を向いて原稿を読んでいた。18年ごろからペーパーを読まず自由に発言するようになっていました。自分の権力基盤を脅かす存在はないとおもいはじめたのではないですか。

Q習近平氏と腹を割って正直に話したことはありましたか。

安倍・中国の指導者と打ち解けて話すのは、私には無理です。ですが、習近平は首脳会談を重ねるにつれ本心を隠さないようになってきました。ある時「自分がもし米国に生まれていたら、米国の共産党には入らないだろう。民主党か共和党に入党する」と言ったのです。

つまり政治的な影響力を行使できない政党には意味がないんだと言うことです。(中略)。

中国首脳にとって、日本とあまり近づくことは危険なことです。習近平の振る舞いの変遷を振り返ると彼は昇り竜でした。でも孤独感はものすごくあると思います。独裁政権はある日突然、倒されるわけです・権威主義国家の指導者のプレッシャーの大きさは我々の想像を超えているんじゃあないのかな。

メルケル

Qメルケル首相は国際舞台で存在感を示し。中国との関係を深めドイツにとって最大の貿易相手国になりました。メルケルから中国への配慮を感じましたか。

安倍・メルケルは首相在任中、中国に12回訪問しています。日本には6回だけです。そのうち洞爺湖サミット、伊勢志摩サミット、大阪サミットためです。単独公式訪問は3回しか来ていません。15年来日時、「あなた、なかなか日本にこなかったね」と皮肉を込めて言ったら「日本は毎年、首相が交代しているでしょう。だから、なかなか訪問するという決断に至らなかった。散々迷ったあげく、安倍政権はどうやら長く続きそうだと思ったから、きたんだ」と話していました。でも、実際は中国重視だったのでしょう。

安倍・彼女は首脳会議の夕食会で、いろいろ中国について話題を振ってくるのです。「孔子学院」について彼女は「学校に全然人がいない。中国人がドイツ国内で工作活動をしているようだ。とでもない」と言う。孔子学院が対外世論工作の機関となっていると言う話は、私は何度もサミットなどで話していたので、「だから言ったでしょ」と私は言った。でもメルケルの対中批判は鵜呑みにできません。「中国海軍は、ドイツ製のエンジンを駆逐艦や潜水艦に搭載している。これはどういうことですか」と聞いたのです。するとメルケルは「え、そうなの?」と言って後方の官僚に振り向いて聞くわけです。だれも答えない。ドイツが中国にエンジンを供給していることなんて、誰だって知っています。この程度の話では動じません。やり手でしたね。

★キャメロン

Q英国の首脳はキャメロン、メイ、ジョンソンの3人の首相と付き合いました。

安倍・キャメロンも中国に傾斜してしまった欧州首脳の一人でした。キャメロンは人権問題を棚上げにして中国に接近しました。それが西側諸国で真っ先に中国主導のアジアインフラ投資銀行に参加表明につながっていく。キャメロン政権は英国内の原子力発電所の建設まで中国にと発注し、英中関係を「ゴールデンエージ(黄金時代)」と表現しました。私はキャメロンに会うたびに人権弾圧、強引な海洋進出など中国の問題点を説明しました。その場では納得したそぶりを見せるのですが、実際は聞く耳を持たなかった。英国経済の建て直しで頭がいっぱいだったのかもしれません。

★マクロン

Qフランスの首脳はオラドン、マクロンでした。

安倍・マクロンは大統領になる前は経済相を務めていたので、アベノミックスへの理解もあった。就任当初から私に敬意をもって接してくれました。私が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想にもいち早く協力を表明してくれました。南太平洋の権益を奪われてはならないと考えたから日本とも戦略的に協力しようとしたのです。アクロンは領土を守る気概が強い政治家です。

Q豪州のアポット首相に助けられる。

安倍・過去にないほど豪州との関係を強化した政権でしょう。13年に、日豪の部隊間の物品役務相互提供協定が発効し、17年には豪州の艦艇防護もできるようにしました。14年1月ダボス会議でアボットが首脳会談を求めてきた。開口一番「これだけは伝えたかった。日本の戦後の平和国家としての歩みは、世界からもっと評価されるべきだ。日本は過去の出来事において謂われなき批判を受けている。それはまったくフェアではないし日本は安全保障分野でも貢献すべきだと思う。協力していこう」と言うわけです。私はびっくりしました。

安倍・次のターンブル首相は中国寄りだったことは事実です。取っつきにくいタイプでしたが、日豪の関係を強化したかった私は諦めずに首脳会談のたびに中国の危うさを訴えました。17年のシドニー訪問のとき、夕食会で彼の奥さんが中国に非常に警戒感を持っていることが分かりました。ターンブルも中国の問題点は十分把握していたはずです。米国抜きでなんとかTPPを発効させようと協力できたのはよかったと思います。

モリソンが首相に就任したころは私のことを「メンター」先生と呼び豪州国内では「私の外交アドバイザーは日本の安倍総理だ」とまで言っていました。捕鯨を巡ってはモリソンと対立しました。18年11月日豪首脳会談で、商業捕鯨再開で理解を求めたのですが「日本はIWCを脱退すればよい」と言うわけです。率直な発言に驚きましたが、結局「日本は19年6月脱退することになりました。

Q台湾の李登輝総統の国家艦に感銘をうける

安倍・1994年自民党青年局次長として初めてお会いしました。初めて李登輝の話を聞いたとき,私は圧倒されました。2000万人を超える台湾の民をいかに守り抜くか,その強い信念と意志に心を揺さぶられたのです。人間的な魅力に溢れる人。人を惹きつける磁場のような人です。靖国神社参拝問題では私の指導者としての姿勢を叱られました。2007年6月李登輝は靖国神社参拝をしました。私は「総統のお気持ちを添って、参拝してもらえばいいんじゃないか」と一切の制約を付けませんでした。

安倍・李登輝総統に彼にはこうも言われました。「日本人は何をやっているんだ。かつての日本人の精神を失ったんですか。国のために散った多くの人が靖国に祀られている。そこに指導者が行くのはと当然のことじゃないですか」とね。もう「ぐうの音」も出ませんでした。


理念の時代に生きる185号

理念の時代に生きる185号・新年度理念実践会

森信三幻の講話・第五巻を取り上げる

  • ここ数カ月日本・世界の情勢は見通しにモヤモヤ感がぬぐえない。ロシアのウクライナ侵略以来一年が経ちアメリカおよびEUの支援体制、中国の習近平のコロナの対応と条件反射的に日本や中国に対してのビザ発行停止措置、日本の岸田総理のアメリカおよびG7主要国としての対応は結果としては路線をはずれていないとは感じるものの、なにやらスカッとしたものを感じない。新聞をよんでもTVのニュースを聞いても、モヤモヤ感がいっぱいで一体どうしたものか。
  • そういう中にあって、今のアメリカやEUとは異なる視点をもつ元ウクライナ大使だった馬渕睦夫の「2023世界の真実」や、改めて司馬遼太郎の「昭和という国家」「明治という国家」に再度目を通しているが、つながりで門田隆将の「蒼海に消ゆ」を読んだ。日系二世でありながら中学のとき帰国して両親の生まれた久留米に帰り中学、そして一橋大学の予科に進んだ藤松大治の話には、涙があふれる。当時の学生たちの生き方を我が身に照らして忸怩たるものがある。
  • 高坂正堯の「世界地図の中で考える」「現代史の中で考える」「世界史の中から考える」と続けて読んでいるが61歳で逝去した彼の歴史観には惹かれるものがある。まだまだ消化しきれない。年明け理念実践会のテキストを指定するのにふさわしい、激動する今日の世界情勢の中でこれはぜひみんなに読んでもらいたいという本には出逢わない。
  • そこで毎月、森信三先生の「一日一語」を開始する前に輪読しているのだが、今回は理念制定者が進化経営学院のテキストとして親しんできた「森信三先生の幻の講話」を数年ぶりに再度取り上げることにした。このテキストのなかに「宇宙の大法」が取り上げられている。この第5巻は先生が昭和48年に書かれた物である。50年経っているが今も全く色あせることがない。今回のテキストは以下の二冊を使った。

■森信三先生「一日一語」より抜粋

二月一日 「人生二度なし」―この根本認識に徹するところ、そこにはじめて叡智は脚下の現実を照らし染めると云ってよい。

二月二日 世の中すべて「受持ち」なりと知るべし。「受持ち」とは「分」の言いにして、これ悟りの一内容というて可ならむ。

二月三日 畏友と呼びうる友をもつことは、人生の至楽の一つといってよい。

二月四日 生身の師をもつことが、求道の真の出発点。

二月五日 苦しみや悲しみの多い人が、自分は神に愛されていると分かったとき、すでに本格的に人生の軌道に乗ったものといってよい。

二月七日 金の苦労によって人間は鍛えられる。

二月八日 人間は腰骨を立てることによって自己分裂を防ぎうる。

これらの箴言について参加者ともども現実の経営者としての立場から和談をした。これらの箴言も各自の状況によって心に深く感じるものがある。

 

■幻の講話 

第16講 耐忍と貫徹、第18講事務を処理する秘訣、第21講話「世界における日本」第22講話「西洋文明とその限界」第23講「東洋への回帰」第24講話「民族の使命と島国の運命」を輪読和談した。

第16講 耐忍と貫徹

  • 知性の単なる平面的な理解の立場を離れ、どうしたらそこに含まれる行動的実践的な真理を身につけるかということにねらいはある。耐忍と貫徹という一事の中にこもる実践的真理はわれわれ人間主体においては実に不可欠な重要な要素だからだ。
  • 理論を主とする西洋の近代教育学のいずこにそれへの示唆が見出せるでしょうか。私自身の考えでは外形的にささやかとも見える、この種の問題一つ取り上げてみても無限な動的真理が内包せられていることが分かる。
  • 耐忍とは、現実の重圧下に身を置きながら、しかも自らの生命の全的緊張によって、かかる重圧に対する一種の消極的抵抗の姿勢の持続にほかならない。この現実界において、かかる耐忍という生命の煉獄を通過しないで成就せられる、如何なる価値あるものもかつて無いからであります。
  • いま一つ需要な実践的真理としては、子供たちに忍耐心を養わせるにはある程度、肉体的痛苦に耐えさせる必要があり、これは実に看過することのできない深刻な現実的真理だと思うのであります。
  • 言葉の上でいかに説いても、またきく子供たち自身としても、なるほど心の中でもっともだと考えても、畢竟(ひっきょう)するにそれはまだ観念的理解の域を脱しないわけで、いったん現実の重圧に出逢いますと観念的な教説はひとたまりもなく吹っ飛ぶのであります。
  • そうした苦難に堪える力を持つものは、目的意識自身のもつ力であり、さらにそれを根底から支えている肉体的痛苦に堪える鍛練だと言ってよいでしょう。
  • 目的意識と言ったのは、結局はその人自身が自らの人生に打ち立てた「立志」という生命の発芽と発光の力という他ないでしょう。

■理念実践会の感想

感想・小路口欣弘

  • 輪読をした森信三先生の『一日一語』と『幻の講話 第五巻』では、これまで学んできたことの理解が深まったと感じる部分が多いように思いました。

内容は全体を通して大きくまとめると『世界の中での日本人の役割』ということがテーマだったように感じていますが、今回は西洋文明がなぜ物質文明や人間本位主義になったのかという背景も含めて知ることで、日本人の『耐忍』『公を大事にする心』『無我』等の特質が世界に必要だということを改めて感じました。

  • 今日のテキストが約50年前に書かれたということでしたが、現在の世界情勢に通じる部分が大きいというのも注目すべき点だと思いました。それは人類にとっての普遍的な価値はやはり利便性や物質面での充実を極限まで追い求めることではなく、一人一人が精神を磨き上げることでできる不可視のものであり、我々でいうところの『和道』であると再認識しました。一人の日本人として、一経営者としてこういった意識を持つことや家族や社員などの周囲への教育や指導、情報共有などの意識を高めることの重要性を深く感じました。

感想・柳井誠一

  • 今月の探究会の近況報告は、弊社の寺林が37歳で急死した報告をしなければならなかったので、どのように伝えればよいのか少々悩みました。しかし、ここで勉強している仲間であったので今の自らの気持ちを素直に伝えられました。その中で改めて『人生二度なし』いう言葉に出会い、寺林君が居なくなった今、自らがおかれている環境は再び振り出しに戻ったような状況だと思っていましたが、この現実も全て受け入れて一度きりの人生、悔いのないよう常に前へ進んでいくことが今の自分に出来ることだと考えさせられました。
  • 久しぶりに『幻の講話』をもとに勉強させていただき、改めて自らの根っこの思想や背筋が伸びた感がありました。肉体的苦痛、精神的苦痛に耐えられるのは自らの『目的意識』、自らが打ち立てた『立志』、我々で言う『理念』があるからであり、ここにいる皆がその意識をもって生きていると感じました。そのことが、身近なところでは子供との接し方やスポーツを通じて伝えられ、また次の世代にその考えが伝わるのだと思いました。
  • 『世界における日本』という我々が現在直面していると思った問題を、すでに50年以上も前から森信三先生は問題提起していたことには驚いたと同時に、時代の推移と共にさらに日本のおける役割は大きなものになっていると感じました。
  • 東洋文明への回帰、その中で我々は何が出来るのか?

民族の使命と島国日本のところで、小路口さんの言っていた『自らの役割が何なのかを考えることも日本人特有の事ではないのか』という言葉はその通りで、私も自らは何が出来るのかを考えさせられました。我々日本人しか出来ないことがあり、それを自らの家庭、自らの会社といった非常に小さな範囲からでも始めることがやがて大きな日本となり世界を変えていくのではないでしょうか。

感想・藤井高大

  • Tさんの件について

昨年秋ごろから彼の言動について「大丈夫かな?」と感じていたので何度か声掛けをしてはいましたが、具体的な進展に向けた働きかけができなかったことが多少の後悔と責任を感じています。彼自身が一番自覚していると思いますが、会社で起こりうるすべての現象の全責任は社長本人にあると考えます。社長の考えや思い、決意を社員たちと共有することは簡単なことではないので、そこに不安や恐れを感じることの理解は出来ますが、環境整備発表会や経営計画発表会、それが無理なら個別にでも「社長の考えや思いを伝える!」ことを続けていくことは絶対に必要なことだと確信しました。理念と向き合い、理念に沿った生き方とは何か?と共通するものがあり、決心、決意、決断が必要なのではないかと感じました。

  • 耐忍と貫徹では、子供のヤル気スイッチをどうすれば入れることができるのかを考えていましたが、自分の願望をイメージしてチャレンジすること、そこからの延長線上に立志に繋がってくれることを応援したいと思います。
  • 即今着手は、頭では理解しているので「その場で処理すること」を実践するのみです。

世界における日本と西洋文明では、物質的生産力の繁栄を求めた半面、公害という問題を生み出してしまった。西洋文明からくる人間本位的な考え方であろう。

■感想・山本卓哉

  • 耐忍には肉体的痛苦に耐えることが必要だとありましたが、自分の過去を振り返ってみると、大学の部活では日本一厳しいとされる先生に4年間指導を受けました。在学中は先生が嫌でいやで仕方が無かったですが、そこで鍛えられたのか卒業してから今まで、その時以上に辛いと思ったことは一度もありません。今では良い経験だった、懐かしい思い出だったと言えます。
  • 子供の教育には時として敢えて肉体的痛苦を与えて、そこから学び取れる、感じられるものがあるということを教えていきたいと思います。また、事務を処理するでは、自分はメモを取ることをあまりしていません。当然忘れることもあります。雑事を忘れると信頼を失うという言葉が胸に刺さりました。メールもすぐ返す。格好つけて良い文章を書こうとしてなかなか返せないので、余計なことは考えずに気が付いたらぱっとする。実践していきます。

■感想・堀越弘道

  • 耐忍と貫徹。耐え忍んで貫き通すことが大切なのか・・そうだろうな。と感じる事はありましたが、何らかの程度における人生への立志の開眼。つまり「立志」の必要性があるという事が今一つだった気がしました。今は理念がありますから、耐忍と貫徹も、理念に沿って進むためには必要だと思います。
  • 教育上、子供達に忍耐心を養わせるには、肉体的苦痛に耐えさせる必要があるという事ですが、子どもにただ我慢しろ、がんばれと言うだけでなく、どうしたいか、どうなりたいのか。という目的意識を持たせる事が大切なのですね。なんでこんな事をするのだろうと思いながら続けるのと、こうなりたいから続けるというのでは身に付く度合いというか、内容や結果も大きく異なります。そのためにも、子供には色々体験させ、見分を広める事が必要ですね。その中でこれは楽しい、大好きだということ柄が見いだされれば、とやかく言わなくても自ら頑張ろうとなります。
  • 「世界における日本」から、「西洋文明とその限界」、「東洋への回帰」、「民族の使命と島国の運命」までですが、ここも以前に読んだ時よりも理解できた様に思います。ヒューマニズム(人間本位)の下、「自我」を拡大させる西洋文明「無我」を基本とする東洋文化。ましてや日本は西洋文明も吸収して現在があります。明治維新、太平洋戦争敗戦では被爆国となりました。
  • しかし、一方的に西洋かぶれせず、取捨選択し、国内でかたちを変え、熟成させて日本なりの形というか姿になっています。何より2600年以上続いている天皇がいる国です。他の国では、戦乱の下、王の首の取り合いでした。日本でも戦国時代はありましたが、誰も天皇に代わり、その座に付こうという事はありませんでした。そういった点も島国であったことが関係あるかわかりませんが、とても特殊な国だと思います。

理念の時代に生きる184

理念の時代に生きる184

その一・新年度経営計画熟考会・茨城

そうじの力・小早祥一郎氏

茨城での熟考会は理念を制定してから10年から20年経っている人たちです。今回は小早祥一郎氏の紹介をしたいと思います。年末に致知の二月号にインタビュー記事が掲載されました。

大学卒業後、カルロスゴーンで一躍有名になった日産に勤めておりました。カルロスゴーンが日産の経営に参画して2年目当たりに退社しました。私の大学時代の友人の紹介で私とめぐり合うことになります。私もかつてコロムビアに勤務していましたが、サラリーマン生活の限界を感じたことがきっかけです。社会人として学ぶうちに企業に勤めることの制約を感じ、自分は一体何をしたいのがという自己の使命探究に踏み出して、理念探究をした結果50歳で自分の進むべき道を見いだし茨城のこの地に未来に対応できる経営者を育てる進化経営学院を創設することになりました。小早さんは進化経営学院の第一回経営者養成塾ジュニアコース、シニアコースを卒業後、講師の役を勤めていただきました。その後2007年に理念探究そして制定後「そうじの力で運命を開く」道に進まれることになったのです。

環境整備は必須

「環境整備」ということは何度か聞いたことがあると思います。経営者ならば経営計画、経営戦略、戦略会計、財務関係の関連の勉強を通じて職場の環境整備は一度や二度は経験されているかと思います。そして自社に取り入れて環境整備を取り入れた企業もあります。私もサラリーマン時代に企業改革を目指してMGマネジメントゲームを通じて戦略会計を全社員を挙げて学びました。と同時に大手企業ですら大型コンピュータ全盛の時代に、シリコンバレーの訪問やワールドコンピューターフェアまで出かけパーソナルコンピューターを学んだ時代がありました。その時代でも環境整備は心ある経営者に取り上げられた課題でもありました。

鍵山秀三郎氏と掃除を学ぶ会

鍵山秀三郎氏が自社でそうじを長年続けられ経営者のなかでも名前が知られ始めた時代でした。一九九三年「全国に掃除を学ぶ会」を立ち上げ鍵山先生の一番弟子ともいわれた岐阜県恵那市にある東海電子工業会長を勤めておられる田中義人氏から始まり今では「日本を美しくする会」にまで発展し世界まで田中さんたちは出かけられ掃除の大事さを伝えています。私も田中義人さんと研修を通じて懇意にしておりましたから、田中さんが鍵山さんは出会い、掃除を学ぶ会発足の経緯を見聞しております。当時恵那や大正村にも勉強仲間がいました。そういう時代の背景がありました。小早さんはその中から更に無知を究めていったわけです。

 

 

■インタビュー記事からそうじに取り組む彼の目的は指導例が語られています。

「君は理念がないからブレるんだ」
いまから約20年前、脱サラしたものの、本当に進むべき道を見出しかね、自分の浅はかさに舌を噛んでいた折のことでした。理念とは、言葉を変えていえば究極の目的。企業に理念があるように、私たち一人ひとりにも理念があって然るべきだというのがその師匠の教えでした。では、私の人生の究極目的は何だろう? この一度きりの人生を、私は何のために生きるべきか?

理念・和の社会をつくる
勉強を重ね、自問自答を繰り返し理念を探究を通じて到達したのが、「和の社会をつくる」という理念でした。エゴを剝き出しにして競争を繰り返すいまの社会に一石を投じ、日本人が本来持つ「和の心」に基づいて、お互いに助け合い、心豊かに暮らしていける社会の実現に貢献していきたいと決意したのです。この理念の下に私がいま行っているのが、そうじを通じて企業組織を強くするお手伝いです。
組織改革に繋がる「気づき」や「実感」

具体的には、委託先の企業様を定期的に訪問し、現場巡回指導、レクチャー、実習、ミーティングなどを通じ、職場に整理・整頓・清掃が定着するよう、意識面と仕組み・技術面の両面から助言を行い、組織改革に繋がる「気づき」や「実感」の機会を提供しています。汚れたトイレを見た時には、その場で便器に手を突っ込み、こびりついた汚れを磨き落としてお見せすることもあります。初めて見る方はビックリされますが、「確かにうちの会社は汚れている」「このままではいけない」と実感され、自らも実践することでこの活動の意義を理解されるのです。
累計500社超の経験
2007年頃から活動を始め、これまでに支援した企業様の数は累計500社超。売り上げや利益が拡大した、不良品が減った、社員の定着率がアップした、不良在庫がなくなった等々、たくさんの喜びの声をいただいています。そうじを実践することによって、なぜ企業にこうしたよい変化が起こるのでしょうか。

再建の三大原理
教育者・森信三先生に、再建の三大原理という教えがあります。時を守り、場を清め、礼を正す。こうした基本を疎かにして、決して会社を伸ばすことはできないのです。人は周囲の環境に適応して生きています。会社の中にものが散乱し、あちこちに埃が溜まっているような状態で、社員様に規律正しい行動を求めても無理な話です。
そうじを実践して身の回りの環境に物理的に働きかけると、人の意識が変わります。必要最小限のものが、使いやすい場所に置かれ、どこに何があるのか一目瞭然。塵一つない状態になれば、社員の間に「約束を守ろう」「人が見ていなくても手を抜かないようにしよう」「ものを大事に使おう」「お互いに気を遣おう」という意識が醸成されていきます。そして、こうしたよい環境を他の誰かにしてもらうのではなく、自ら行動してつくっていくことが、意識の改革に繋がっていくのです。
支援先の巡回指導
支援先の巡回指導では、工場、倉庫、作業場など、外からは目に留まりにくいバックヤードも順次見て回り、「ここはこうしましょう」と、気になる箇所を随時指摘させていただきます。見えない所に手を入れることで、その組織が潜在的に抱えている本当の問題が炙り出され、改革の糸口が見えてくるからです。支援先の中には、長年倉庫に山積みになっていた不良在庫がゼロになり、利益率が大幅に向上した企業様もあります。
「そうじ」
私はこの活動に際して、漢字の「掃除」ではなく、あえて平仮名表記の「そうじ」を用いて、一般的な掃除よりも広く、深い意味を持たせています。それは、単に掃いたり、拭いたりして、場を綺麗にすることだけに止まらず、その奥にある本当の問題を導き出すことを目指しているからです。本質を明らかにし、究めるお手伝いをすることこそが、私の支援活動の真の目的なのです。( 以上、致知インタビュー記事より一部抜粋)

 

■そうじで会社が生まれ変わる・高崎新聞2023年1月

経営セミナーでそうじ?

「経営改革セミナーに出席したら、いつのまにかそうじの仕方を研修していた」と語る参加者の表情は、期待外れだったのではなく、むしろ感銘を受けるようだ。セミナーの講師は”(株)そうじの力”の小早さん。同社は掃除を中心とした環境整備(5S=整理・整頓・清掃・清潔・躾)を通じて、企業の人材育成・経営改革を支援していくコンサルタント会社だ。

なぜ”そうじの力”なのか

支援先のひとつである鋳造メーカーでは、製造工程で砂を使うので、以前は汚れるのは仕方ないと考えていた。小早さんの呼びかけにより従業員が委員会をつくりクリーンアップ作戦を展開した。最初は嫌々ではあったものの、掃除には経験や特別な技術は必要なく、若手でも一生懸命やれば結果が目に見えて現れた。工場の床はピカピカ。褒められ、自信が出てきて、従業員たちはあきらめないことの大切さを実感し、離職率やミスも減った。

座学だけの研修では、その後の継続した取り組みは難しい。誰にでもできる”そうじ”をベースに導入したほうが、現場改善に向けた取り組みが定着しやすく、成果がはるかに上がるという。

行動から習慣、そして改善へ

「例えばゴミが落ちているのを放っておけば、ゴミは”問題”としてそこにあり続ける。何とかしたいと拾えば、ゴミは無くなり問題は解決。他人をあてにせず、自分ができることを積み上げることで、周りを非難する前に自ら動くことの大切さを実感し、継続すれば前向きな心や人と協力し合う風土が育ちます」と話す。

同社のコンサルティング期間は1年以上で、毎月2回、各企業を訪問する。講義、ミーティング、体験実習、計画作りなど、顧客にあった研修プログラムを提供する。依頼があれば全国どこへでも訪問し、現状の診断や相談に応じる。

人の心で周囲は変わる

「モノの乱れは心の乱れ」「形を整えることによって心を整える」。企業経営や個々の生き方において、従来の成功例が通用しない時代、人の心のありようを行動から改革していく取り組みが何より求められているといえる。

ゆくゆくは地域全体にそうじの輪を広げていきたい。そうじは心の美化にも通じ、コミュニケーションを促し、住民が明るく仲良くなれます」同社の事業内容には小早さんの経験や想いが詰まっている。

 

その二・理念制定企業の彦根経営計画熟考会

 今年経営計画熟考会を彦根で開催することができました。前日毎年参加している鯖江の藤井さんが、家族がコロナ感染して、無症状だが欠席するとの報がありました。群馬、広島、大阪、福井から三名。六人の人たちが参加してくれました。毎年参加し経営計画を立案し一年後にはここ彦根で再会するわけです。このあと一年間、彼らを含めて理念を制定しているメンバーが茨城までこられる人たちと毎月ZOOMで理念実践会を開催しています。彼らの変化は毎年目を見張るものがあります。

熟考会は三日間の日程で進めます。初日、世界の情勢分析、現状認識から始まります。そして各社の企業理念を背景に以下の手順で、三日目に新年度の構想計画実行計画表を作ります。大事なことは理念が各社とも明確であることです。参加社は理念が制定されています。藤井さんは後日ZOOMで二日間で行いました。

 

■原因追求(過去対応)の問題解決と経営熟考会の違い

経営計画を立てる事は多くの経営者がやっていることでもある。従来の立て方は前年の計画数字と現実とのギャップ(差額)を振り返り何故未達なのかを考える所からはじまる。

それは過去の過ぎ去った原因を取り上げ、その要因を探究することです。当面対処になりやすく、本質的な解決策には遠い。厳密には過去は変えられない。反省することは悪いことではないが、最近のコロナや中国の世界に対する戦狼外交などを見れば明白だが、これも過去を変える事はできない。

■変えられるのは未来

私達は企業理念・人生理念を背景に毎年方針と立てるのだが、そこに到るステップは次のプロセスがある。そのプロセスは「指針設定①理念設定から問題分析②案件設定③現状把握④来果探究⑤予悔充足)のステップを経て方法立案(⑥方針設定⑦方策探究)そして態勢実現(⑧計画探究)」である。

■未来を明確に描く

そのなかでも④来果探究・現状把握から将来を予測する。上局来果これらの問題に手を打った場合、解決した場合の望み放題の未来像を明確に描き、他方でこれらの現状に新たな手を打たなかった場合の正面来果を予想する。倒産の廃業、危機も明確に描く。

■未来から現在の真の問題を捉える

⑤予悔充足未来から現在を見直し現状の中にある未改善点に迫る。何故手をうたなかったのか。何故分かっていても放置していたのか。何故怠ったのか。行動しなかった自分の要因を遡って探究する。この局面で問題の核心に迫ります。

■未来から思考する経営者

熟考会に参加する企業は自社の立てた計画を一年をかけて実行していきます。変化は一年経過すれば進級するように段階的に成長するものではありません。しかし、こうして変えられる未来に向かって着実に手を打ち続けている参加企業は事業転換も可能なのです。今回も続けてきた経営計画熟考会の効果、成長する若き経営者の姿、彼等が指導する会社で働く社員の姿、家族、同業者等々の未来の姿に心が踊ります。若い経営者の姿は我が励みでもあります。(悦司)

 

 

感想抜粋

  • M氏「社長になる前から今の会社の危機は感じていましたが「このままでは」という気持が心にありました。実行計画を出すことで私が変化、進化させていかなくてはならないという気持ちが強くなりました」
  • S氏「例年になく自分自身で一年前の自分との変化を感じることがきました。(中略)現段階での問題、それに対する方針、方策、実行計画をたてこの一年も怠ることなく実践を積み重ねる気持ちになりました」
  • Y氏「昨年から年末にかけて、作業に追われ経営者としての仕事ができていませんでした。この会に参加して自らと、自社の未来に向かっていく希望が得られました」
  • T氏「久しぶりにリアルに会えて刺激になります。今年は社内外で実践できたこともあり深い気づきが得られました。みなさんの成長、経験の積み重ねを感じ私も頑張ろうという勇気をもらえました」
  • A氏「皆さんの発表を聞きながら自分の課題に向き合い思考の広がり計画にも広がりが出てきました。大きな決断をしました。向かうべき方向性が明確になり大変充実した会になりました」
  • Y氏「熟考会という自分の中にあるものを探究する作業ではありましたが、データー量、情報統合文も今までで一番満足のいくデーターが作れました。進歩も実感できました」

理念の時代を生きる183号

理念の時代を生きる183号・混迷の世界を振りかえる

その一・ウクライナが変えた欧州

★12月6日JAPAN FORWADのセミナーがあった。ジャパンフォワードについては以前お話した。「JAPAN Forward」は、「素顔の 日本」を良質な英語で世界に発信し、日本と日本人をより良く理解していただくための英語ニュースオピニオンサイトです。世界は残念ながら日本と日本人に対する誤解と偏見が満ちあふれています。JFは、日本の現在(いま)を、世界に向けて冷静に、前向き、多元的に伝える成熟したメディアを目指します。

★パリ支局の三井氏のリアルな講演で、私たちが日本で聞くロシアのウクライナ侵略のEUにおける情報とは異なる現地情報であった。経済中心のEUの生き方が、ロシアの独裁者の一存でガラッと変わる現状を見るにつけ、経済中心の国のある日本の経済界のあり方が問われる。日本人も平和惚けしたEUともども葛西敬之氏が残した「大義なき経済人よ、国を滅ぼすな勿れ」と言う箴言をもう一度思い起こしていただきたい。

■インフレの欧州

  • クリスマスが近づき欧州はガス、電気などエネルギー危機と値上げにあえいでいる、インフレの冬迎えている
  • インフレ率は20%に及んでいる。特にウクライナ22.2%、バルト三国20%、ポーランド16.1%、ロシアは15.1%

一方、フランスは5.8%、ドイツは7.9% で7月ころからの補助金の関係で低い。

家計費も値上げが20%近く家庭を圧迫している。

 

■ウクライナに対する軍事費支援

 

  • EU全てでもドイツ、フランスを併せてもアメリカの軍事費の1/2にも到底叶わない。

文字どおりこの戦争はアメリカの代理戦争である。

  • ドイツ、フランスはウクライナに対する支援はEUの中心国であるにもかかわらず、少なく、欧州安保の独自性を唱えていた独仏の影響力は示せていない。
  • ドイツ、フランスは外交も対話が必要とし「ロシアに恥をかかせるな」という意識が強い。マクロンはロシアに対して優しい。
  • 安全保障に対しても、ウクライナ戦争開戦当初はロシアとの対話を協調していたが全く効果なしだ。(対話こそ重要であるとマクロンは唱えてきたが、何ら効果はなかった)
  • EUは従来多国間外交が基本でNATOもアメリカに頼らないという姿勢を示していたが、ロシアのウクライナ侵略に遭遇し、独自路線が効力のないことがハッキリした。
  • 今まで小国だとして遠慮していたポーランド、フィンランド、バルト三国はロシアの弾圧の経験からGDP1%の支出をしているし、このインフレにも我慢をしている。
  • ポーランドは戦車200台の支援をし、一方ドイツはロシアと揉めたくない腹か、自走砲の支援を躊躇っている。

 

■EUはロシアのウクライナ侵略を予想してなかった

  • アメリカがロシアのウクライナ侵略を予測していたが、EUは予想していなかった。
  • ロシアが侵略した当初、独仏は[ウクライナは勝てない]と予想していたが、アメリカの支援で果敢に戦うウクライナをみて、EU全体が見なおしている。
  • 今までNATOも内部的にも小国の不満があったが小国の意見は無視されていた。

■EUの武器調達

  • アメリカが支援したジャベリン、ハイマート、無人機の効力を発揮した結果、NATO兵器見本市でのアメリカの戦闘機F35に注目があつまりEU内部でも安保に対しては信頼性が薄れている。フランスも次世代戦闘機開発は2035年以降の計画だ。
  • F35をスイス、オーストリアまで購入するようだ。2030年までに550機態勢を組む計画になっている。

 

■独仏の対中、ロシアへの意向

  • マクロンはEU安保の上からロシアをEUに取り込みたい意向があったし、ドイツはロシアからの調達量に対してもエネルギーの80%をロシアに依存している。
  • ドイツは中国に依存し自動車輸出の30%以上を占めている。EU全体として中国に依存している。フォルクスワーゲングループの2020年の販売台数(商用車を含む)のうち、中国が占める割合は42.2%、ダイムラー(乗用車)は36.3%、BMW(同)は33.5%となった。
  • EUは平和惚けしている。経済第一主義で来た独仏の姿勢が結果としてエネルギーのロシア依存、中国の戦略に巻き込まれたきEUの脆弱さがあらわになった。

■中国、ロシアと今後どう付き合うか

北京詣でがつづくEU

  • 習近平が三期目の就任をした直後、ドイツ首相オラフ・ショルツ首相は中国を訪問した。こんなときに訪問するドイツに対して、何を考えているのかとの批判が沸き上がっている。
  • EUのミッシェル大統領は12月1日の習近平との会談でウクライナ侵攻を続けるロシアに対し中国が「影響力」を及ぼすよう改めて要請した。これに対してロシアに武器を提供することはなく格の脅威は容認できないことを明確にした。またEUの企業や投資家が中国で直面している問題を伝え中国では複数の分野で閉鎖的な状態が続いていると伝えている。2023年1月にはマクロン大統領も中国を訪問する。
  • 直接投資は4分の1に減っているが、EUは中国なしでは経済が成り立たない状態が続いている。

中国、鉄道で欧州制す 異様な「北京詣で」 三井美奈 青

なぜEUはこんなに、中国に弱いのか

  • 欧州連合(EU)首脳の訪中が相次いでいる。ドイツのショルツ首相に続き、1日にはEUのミシェル大統領が習近平国家主席と会談。年明けには、フランスのマクロン大統領も行く。
  • 習体制は10月の共産党大会で独裁を固め、中国では「ゼロコロナ」政策への抗議デモが広がった。こんな時期に、人権重視を掲げるEUが「北京詣で」に熱を上げるのは異様ではある。ロシアのプーチン大統領には厳しいのに、ロシアを支える習主席に接近する。なぜこんなに、中国に弱いのか。ドイツ西部の産業都市デュイスブルクを訪ねると、答えが見える。

ドイツ西部の産業都市デュイスブルク

  • ここはライン川とルール川の合流地で、中世以来、河川交通の要所だった。鉄鋼産業の傾斜でさびれ、一時は12%の失業率にあえいだ。ところが今は高層ビルがそびえ、都市機能をIT網で結ぶスマートシティーとして注目を集める。
  • 変化のきっかけは2011年、廃れた内陸港に中国が目をつけ、中国と欧州を結ぶ貨物列車「中欧班列」の拠点駅を開設したことだった。市は欧州サプライチェーン(供給網)の中心地に変貌した。列車は当初、年間17便だった。それが昨年、1万5千便を突破した。機械や穀物、日用品を積んだコンテナがひっきりなしに到着し、欧州各地に運ばれていく。港を歩くと、新ターミナル建設が急ピッチで進んでいた。
  • 市の中国担当、マルクス・トイバー氏は「14年には習主席も来ました。市内にはいま、中国企業1200社が進出しています」と誇った。

華為技術(ファーウェイ)と協力

  • スマートシティー計画は、市が中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)と協力して進めてきた。「通信は安全なのか」とトイバー氏に聞くと、「最近はファーウェイの部品は使っていない。政府の動向によっては関係見直しもあり得る」と言葉を濁した。
  • ドイツは欧州最大の経済国で、技術力も高い。だが、次世代の技術競争では、米中の2強対決に入っていけない。

中国はもうドイツの技術力を必要としていない

  • 悪いことに、中国はもうドイツの技術力を必要としていない。フォルクスワーゲン(VW)やBMWは、販売の3~4割を中国市場に頼る。中国は、ハイテクの電気自動車(EV)をどんどん欧州に売り出し、力関係は完全に逆転した。
  • EUはロシア産エネルギーへの依存に懲りて、「強権国家に供給網を頼るのは危険だ」と繰り返す。現実は、追いついていない。EV電池生産に必要なレアアース製品は、9割を中国から輸入する。太陽光パネルは8割が中国製だ。バイデン米政権は対中デカップリング(切り離し)を進めるが、EUには同調する余裕は全くない。
  • 習体制は、10月の党大会で台湾統一を「歴史的任務」と位置付けた。台湾有事が排除できなくなると、EUには中国と対決するより、「危機レベルを下げる」ことが重要になった。アジアからの半導体供給の停止は、悪夢のシナリオと映る。

「欧州の独自外交」

  • 欧州政治家の困ったところは、こんな状態でも「欧州の独自外交」を強調することだ。マクロン氏は、紛争解決で「中国はもっと重要な役割を担える」と持ち上げた。独仏の対話路線は、プーチン政権に対して破綻したばかり。
  • EUのボレル外交安全保障上級代表は先月、「われわれは中国に対し、米国と異なる道をとる」と述べた。中国にとって、うれしい発言だったに違いない。

 

その二・日本が直面している課題・「安倍晋三 時代に挑む」

「天は自ら助くる者を助く」ウクライナの教訓とは 対談・国家安全保障局 北村 滋

ロシアが仕掛ける「ハイブリット戦」と「情報戦」の帰趨(きすう)

  • 安倍 情報戦は「情報収集」と「情報発信」の両面からなります。北村さんは情報収集について指摘されましたが、情報発信についてもウクライナ優勢が続いている。ツイッターやユーチューブを通じて、リアルタイムで現地の映像が世界中に拡散される。SNSを駆使するゼレンスキー大統領の発信力と相まってロシアを圧倒しています。p18

「NATOに入れない」ならフィンランド化

  • 北村 安倍総理は、プーチン大統領と二十七回の会談を重ねられました。プーチン大統領は、どのような価値観の持ち主なのでしょうか。
  • 安倍 彼は「力の信奉者」です。二〇一三年のG8首脳サミットでは、シリア内戦がテーマになった。ロシア以外の七ヵ国はアサド政権を退陣に追い込むべきだと主張しましたが、プーチン大統領は「この地域は力が支配する世界だから、後継者を決めないと大変なことになる」と反論。p19
  • 安倍 プーチン大統領と対話するなかで、我々とは異なる価値観を持つ指導者だと感じましたが、今回のような無謀な戦いに突き進むとは思いもよりませんでした。ウクライナ侵攻における彼の戦略を読み解くのは難しいものの、「選択肢はすべてテーブルの上にある」という姿勢で交渉すべきだったのかもしれません。p19

今日のウクライナは明日の台湾

  • 北村 習主席は、台湾統一に並々ならぬ意欲を燃やしています。二〇二一年七月、中国共産党創設百年を祝う式典で、「祖国の完全統一を実現することは党の歴史的任務」と語り、「あらゆる『台湾独立』のたくらみを断固として粉砕し、国家主権と領土を守り抜くという中国人民の揺るぎない決意を甘く見てはいけない」と述べている。p21
  • 安倍 ところが、軍事力で圧倒するロシアがウクライナを攻めあぐねている。中国といえども、台湾を武力統一するのは容易でないと認識したはずです。p21

共通点(同盟国なし)と相違点(台湾は国連加盟国ではない)     

  • 安倍 米国はこれまで、台湾政策で曖昧戦略をとってきました。中国が台湾に侵攻したとき、軍事介入するかどうかを明言していません。「米国が軍事介入するかもしれない」と思わせて中国を牽制する一方、台湾の独立派には「米国が軍事介入しないかもしれない」と思わせて暴走を防いできた。曖昧戦略は、中国に米国の意思を見誤らせる危険を孕(はら)んでいます。米国は、台湾防衛の意思を明確にすべきです。p24

中国が狙う世界秩序「変革」の危険性

  • 北村 一〇%近い内閣支持率を犠牲にして成立させた平和安全法制によって、集団的自衛権が一部容認されることになりました。他国と情報共有する上で欠かせない特定秘密保護法と合わせて、日本が「普通の国」に近づいた。p28
  • 北村 中国企業が世界のインフラ投資に参入して、経済成長に不可欠な資源を確保するとともに、世界中に軍事拠点をつくる。それが「一帯一路」です。カンボジアやミャンマーなどの東アジア、スリランカやパキスタンといった南アジアでは、中国が戦略拠点をすでに確保している。p28

 

その三・門田隆将「日中友好侵略史」

日中友好から反日・恫喝へ・公明党の関わり

■第八章日華断交は可能か 

  • 田中が最も懸念していたのは「台湾派の抵抗」と「戦時賠償問題」にほかならなかった。
  • 廖承志は周恩来と相談の上、日本側の難題を克服するのに使ったのは「公明党ルート」である。7月半ば中国から公明党に「招請状」が届いた。
  • 周恩来・竹入会談の核

周恩来「毛首席は賠償請求権を放棄すると言っています」竹入は驚いた。そのご田中訪中の日程調整に入った。

  • もたらされた共同宣言案・1972年8月3日帰国、竹入「中国は戦時賠償を求めません」と伝えた。「分かった。中国に行く」田中。

■第十一章丸裸だった日本・周恩来は全てを知っていた

  • 全て随行員まで調べ上げて国交正常化に向けて緻密な戦略を練っている中国。一方の日本は、中国の事情も知ることなくこの場に「飛び込んできている」
  • 第一回会談(外務省公開文書)田中の後、大平は冒頭から台湾との関係を清算し、日華平和条約は日中国交正常化がなった瞬間に「終了する」と申し出た
  • 共同声明は発表された・1972年9月29日日中両国は日中共同声明を発表した。中国側の姿勢「九項目」の日本への要求・合意事項が並んでいる。

■第十二章始まった日中友好絶対主義  

  • 1978年10月中国の実質的な最高権力者、鄧小平が来日した。日本経済は中国への「投資」から「依存」へと形を変えていく。

■第十三章世界を驚愕させた人権弾圧 

  • 天安門事件の勃発●人権無視と中国擁護の日本外交●天皇訪中で中国制裁を解いた日本

宏池会の宮沢喜一政権下で親中派の代表とも言える河野洋平官房長官が橋本 恕・中国大使と計らった日本の歴史上の痛恨事とも言えるものとなった。

■第十四章変貌する中国 

  • 宮中の晩餐会江沢民の発言・1998年天皇訪中から6年目、江沢民が来日、「日本人は歴史の教訓を忘れるな」と発言した
  • 江沢民が始めた反日教育・二つの最重要課題は日本との「歴史問題と台湾問題である」

 

その四・葛西敬之・日本が心配だ!

大義なき経済人よ、再び国を滅ぼす勿れ 

■中国は技術を吸収したいだけ

  • JRが儲かるわけではないが、メーカーが利益を上げ、体力が増せば、彼らの東海道新幹線に納入する資機材の品質も維持向上される。それは安全な輸送につながる。当社は直接の利益は期待しませんが、旅客の安全性向上というかたちで回収できるわけです。P106
  • 中国の場合は、そういうわけにはいかない。ほかのビジネスを見ても、中国はサンプルだけを日本から買って、あとは自分たちで作りたい、と言い出すケースが多い。これでは日本の鉄道関連製造業が空洞化してしまう。台湾はそういうことがありません。P106

■経済人のプライドはないのか

  • 最近、日本の経済界がなだれを打つように「中国詣で」を繰り返し、そればかりか「政冷経熱では商売がうまくいかない」という理由で、「首相の靖国参拝はやめて欲しい、尖閣諸島の問題は話題にしないでくれ」などと言い出す。こうした動きは、非常に愚かです。戦前「支那には四億の民がいる」と言って中国に進出し、反日運動が起きると軍部をたきつけたのは経済人でした。P107
  • 中国は最近急速に軍事力を強化しています。その軍事力は台湾と同時に日本に向けられていることを自覚すべきです。さらに東南アジアにおける覇権を確立すべく東アジア共同体構想を提案して日米の分断を策しています。安全保障の上では、日本の唯一最大の脅威と考えるべきです。短期的には商売上魅力でも、民主主義と自由のないところに長期的安全はありません。P108

■「日中友好」を呪文のように唱えてもしかたない

  • 日本がとるべき道は、アメリカとも関係をより強化し、それに拠って中国との間では、お互いに尊重、尊敬しあえる関係を作り上げることです。貧富の差が拡大し、これからますます高まっていく中国の国内不安、対政府不満のはけ口にされるだけです。P111
  • 日本は民主主義・自由主義を基本的価値とする太平洋の西端の島嶼である。日米同盟によるアメリカの核抑止力により中国の核戦力とバランスさせる姿勢を明確にしたときはじめて中国は日本に敬意を払うようになるでしょう。P111
  • 「うまく付き合う」とはそういうことです。呪文のように「日中友好」と唱えてもしかたがありません。まず、真正面から、脅威である面も含めて相手を見すえて考えるべきでしょう。日本は中国の現実に対して目を閉ざしている。それは長い歴史の中で育まれた先入観なのでしょうか。P111

 

その五・宇宙の大法

森信三「幻の講話第五巻」1973年昭和48年発行

  • 一般化して申せば「物盛んならば必ず衰う」というのも、「宇宙の大法」の一顕現といって良いでしょう。この真理は、古来ローマの繁栄と没落を以って、その典型と考えられるのが普通ですが、当時ローマの繁栄のさ中に生きていた人々には、それが何時の日にか衰える日があろうなどと、果たして何人が考えたことでしょう。248
  • この「物盛んなれば必ず衰う」という「宇宙の大法」は、この地上では、かつて一度といえども、例外のあったためしがないのであります。わが国の歴史の上に見ましても、太閤秀吉の全盛だったころ、何人があのような悲惨な末路を洞見し得たでしょうか。家康によって創始せられた徳川幕府の組織というものは、これまで人智によって構想せられたあらゆる政治形態の中で、もっとも周到綿密ものだといえましょうが、しかしそれさえも何時かは崩壊の期が来るのを避けられなかったのであります。248
  • 現在この地上において、その経済的または軍事的実力において世界にその覇を唱えている国々とても、必ずしもその永続を保ち得ないことは、十二分に予測し、予断することができるのであります。例えばアメリカのベトナム戦争(1960~1975)のごときも、最近の世界史上における顕著な一例といってよいのであります。これは必ずしもアメリカのみでないことを知らねばならないと思います。248
  • この大宇宙というものは、いわば無限大の「動的バランス」とも考えられるのでありまして、それは大にしてはもろもろの天体の運行から、小にしては、われわれ人間の一呼一吸、さらには眼の開閉に至るまで、すべては「宇宙の大法」ともいうべき、この「動的平衡(へいこう)」の大用ならぬは、ないわけであります。250
  • したがって、この無限に流動的な世界情勢下にあっては、すべて刻々に変化して止まらぬわけですから、常に「活眼」を開いて民族の歩みを、この転変して止まない国際情勢との関連において、大観して戴きたいのであります。同時にこうした際に、なにか判断の基準というか、尺度になるものが必要だと考えられたら、その時こそ、この「宇宙の大法」という絶対の真理を思い出して頂けたらと思うのです。251

 

■宇宙の大法の視点で思考する

  • 2022年は正に現代史の内にあって激動の年であったといえる。第一に上げるべきはロシアのウクライナの侵略が上げられる。ウクライナが変えた欧州で取り上げているがEUの中心のドイツ、フランスは予想していなかった。EUは当事国のウクライナの国を挙げての反撃姿勢を見て支援体制を強化した。プーチンの予想は2カ月で降伏すると思っていたらしいが、年末に至っても終息は見えない。
  • 第二に上げるべきは、中国の習近平の文革後鄧小平以降の集団統治の制度を破り三期目も首席に就任し、かつ李克強たち中国共産主義青年団を排除して太子党で独占したことである。習近平の独裁政権の始まりです。
  • 第三に大会直後、共産党独裁反対と習近平退陣の横断幕が掲げられ、世界に拡散したこととゼロコロナ宣言を表明した直後、白色革命という手段で国民がコロナ政策に反対した。その後、程なくゼロコロナ対策を撤回し、データ集計も中止する旨の報道がつづいた、途端に事実かどうかは別として二億人の感染が報告され、加えて薬の店頭からの枯渇、日本に滞在する中国人に購入を依頼する本土の親戚知人が増えているというニュースがながれている。コロナに翻弄される我々も驚く政策転換が行われた。
  • 2023年度の経営計画熟考会の資料でこの宇宙の大法を取り上げているが、習近平の絶頂のいま衰退への分岐点になると、浅解してはならない。歴史は我々が考える程、短時間では動き始めない。戦後世界の中で覇権のトップを走ってきたアメリカがベトナム戦争後、衰退の傾向にあるにしても、現在なおロシアのウクライナ侵略の代理戦争の一方の主役であることは間違いない。
  • 新しい年も予断を許さない激動が続くであろう、しかしながら転変して止まない国際情勢を見たとき、なにか判断の基準というか、尺度になるものが必要だと考え、森信三は「宇宙の大法」という絶対の真理を私たちに伝えている。