脳力開発177号 プーチンとウクライナ
今回のウクライナ侵略は予想されていたという。2017年8月に発刊された「2030年ジャック・アタリの未来予測」に書かれている。私は2020年第4刷を持っているがp168に旧ソビエト連邦における危機の章に以下のように書いてある。
ロシアはクリミア(クリミアは電力供給をウクライナに依存している)とウクライナ東部の独立派を結ぶ細長い一帯を、またしても占領するだろう。
アメリカとヨーロッパは、ロシアのこうした侵略を思いとどまらせるためにウクライナへの支援を強化する。ウクライナに武器を供与し、NATOをウクライナを加盟させることを検討する。アメリカとヨーロッパのこうした動きを開戦事由と解釈するロシア政府は、アメリカに向けて先制攻撃を仕掛ける。
今回ジャック・アタリをインタビューした記事がHANADA に掲載された。そのなかからポイントレビューしてみたい。インタビュアーは大野和基氏▲質問 ●ジャック・アタリ
▲多くのロシア専門家はロシアのウクライナ侵攻をその可能性はない、あるいは低いと予想していましたが。
- 予測は難しくない。一般的に独裁者は民主主義国家のリーダーと違って有言実行の人です。プーチンは「ウクライナはロシアの一部であり、それについて諦めない」と常々言っていました。簡単に予想できた。多くの専門家がそういう基本的なこともできなかった。専門家といわれる人はbad news(まずい状況)に目を向けない。アメリカ人の学者で正確に予想した人は何人かいます。シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授もそうだ。
▲この戦争の状況はなかなか収まる気配が推測できますか?
- 永い戦争の終りは、究極の終焉にはロシアは近代化し、民主国家になります。EUの加盟国になります。その終焉に到には五年、十年、五十年かかるかもしれません。
▲ロシアは民主化するとお考えですが?
- 「東部トンバスとウクライナがNATOに加盟しないという保証がほしい」とプーチンは言っていた。しかし、この戦争はロシアの利益に反する。ロシアは長期にわたり孤立し、貧しくなり、破産するでしょう。
▲ウクライナに引きを送り続けることは戦争を長引かせることにつながるという見解に対しては如何ですか?
- 我々が目の当たりにしたようにロシア人は野蛮人です。ウクライナの町に侵攻すると市民を強姦して殺害するなど蛮行を繰り返している。我々がウクライナを助けなければ平和は訪れません。
我々はクリミアで何が起きたか目の当たりにしたのです。我々はクリミアのために戦いませんでした。今回ウクライナ人がロシアの侵攻に抵抗していなかったら助けを出していなかったかもしれません。ウクライナ人自身が抵抗したからこそ助けようとしたのです。
- 野蛮なロシア人にウクライナ人を強姦させておくわけには行かないことに気づいたのです。五十万人以上のウクライナ人がシベリアに強制送還され、七万人の子供が孤児になり何千人もの女性が子供の目の前で集団強姦され殺されたのです。忘れることもできないし、許すこともできません。
▲この戦争の結果世界は危機の前と何が変わるでしょうか?
- どんな真っ暗な夜の後に夜明けがきます。ヨーロッパ全体が民主主義国家になるでしょう。そのあと、いつになるかわかりませんが中国も民主化されるでしょう。日本は栄えるアジアの中でさらに栄えるでしょう。遠い将来の話であっても、いずれそうなると思います。
プーチンの実像-孤高の「皇帝」の知られざる実像
朝日新聞国際報道部の発行の著書を読んだ。
プーチン簡単な略歴
- 1989年11月ベルリンの壁崩壊、1991年6月ロシア共和国大統領選挙でエリツィンが当選。
- 8月プーチンKGBを辞職、12月ソ連崩壊。
- 1999年3月安全保障会議書記、3月~6月コソボ紛争。
8月首相12月エリツィン大統領辞任にともない大統領代行。2000年大統領選で得票率53%で当選、2004年大統領選で得票率7割以上で再選。
- 1998年~2013年G8でロシア参加。
真意を悟られない内に機先を制する形で舞台を迅速に投入し空港を制圧する。コソボへの国際部隊展開に際してロシアが試みたこのパリーンは、15年後の2014年春、ウクライナを巡る危機の中で再現される。
- 記章を外したロシア軍の特集部隊がクリミアで真っ先に入った拠点の一つが、中央都市シンフェロポリの空港だった。プーチンは当初は軍事介入を否定していたが、併合の翌月には「我が軍はクリミアの自衛勢力の背後にいた」と認める発言をしている。
★このプーチンの実像を読んであらためて、私達日本人はロシア・ソ連のことを知らない。のみならず戦前も戦後も彼等の異質な価値観の国・ソ連ロシアを日本人の見方でしかみていない、日本人は単純の視点しか持っていないことに気づかせられる。国際社会の強かさは日本人には到底わかりそうもない。この事は中国に対しても同様である。
★ソ連・ロシアは第二次世界大戦後1945年8月日国際法上認められている相互不可侵条約「日ソ中立条約」に違反し満州、北方領土を侵略した過去がある。私達は負けたのだから致し方ないと思ってきた。このウクライナへの侵攻を目の当たりにしてソ連・ロシアは欧米とは根本的に異質の価値観であることがソ連崩壊後の経緯を含めてハッキリと描かれている。(悦司)
理念の時代を生きる177号・コロナ後の未来
第一章 デジタル独裁主義の悪夢を阻むには ユヴァル・ノア・ハラリ 堀越弘道
■中国的権威主義体制の落とし穴
- COVID-19が浮き彫りにした問題は、国際秩序がいかに脆弱な状態にあるかという事だった。
一国でも感染対策に穴があれば、人類にとっての危機になりうるのです。中国の様な一党独裁
体制の落とし穴が露呈したと考えられます。
- 権威主義や独裁体制は表現と報道の自由を制限して国民を支配する為、COVID-19の発生か
ら2年以上たっても発生からの武漢の数週間など、何も明らかになっていない。民主主義国家であれば、情報は報道機関か個人が公表した。
■監視システムの強化
- 中国国民の持つスマートフォンにはコロナ追跡アプリがインストールされ、国内には5億7千台ほどの監視カメラが設置されている。AIにより顔認証で個人を判別出来る、このテクノロジーは
新疆ウイグル自治区で実験され、実装化された。P20
■民主主義国家も監視をする
- 日本でも政府が新型コロナウイルス接触確認アプリを開発。国民に推奨しました。しかしながら私たちはプライバシーと健康を天秤にかけて、どちらかを選択するべきではありません。プライバシーも健康も、両方とも守られるべきです。P22
■個人データを収集する企業
- 民主主義国家であっても、政府が一元的に個人データを蓄積する事を許すべきではない。データーは少数の機関に集中させず、国民の側もデータがどの様に使われているかを監視し、緊急経済対策など、どの様配分されているかモニター出来るシステムを作るべきです。P25
■チャイナ・ファースト
- 習近平国家主席の体制となってから「チャイナ・ファースト」と呼ぶべき姿勢を強めている。中国はこの30年間、経済、外交、軍事でアメリカと争って台頭してきた。そもそも民主主義国家と権威主義国家では価値観が正反対なので何をしても相容れる事はありません。P30
■日本の現実的な脅威
- 台湾問題は日本の安全保障にとって現実的な脅威です。アメリカと日本と台湾で総合的な軍事力を強化し、具体的にどう対処するのか決めておくべきだ。国家資本主義とも呼ぶべき中国に私たち民主主義陣営にいる者が価値観を強制してはならない。お互いが異なる事を認めるしか手立てはないのです。52
■パンデミックの教訓
- このパンデミックで得られた教訓は、科学者たちが国際的に協力して立ち向かったことでしょう。各国の指導者たちも科学者たちのグローバルな協力から学べるはずです。国際的な協調の枠組みを築くことは、将来パンデミックが起きるリスクを低減させ、山積みしている問題に取り組むのにも役立つはずです。P33
第4章 コロナ後の働き方はハイブリッドワーク リンダ・グラットン 藤井高大
- もう後戻りすることはありません。全員がオフィスに毎日出勤する時代に戻ることはあり得ない。こまで社員は通勤で毎日2時間を無駄にしていました。その時間を学習や研修、家族との時間に費やせるようになったのです。いま考える必要があるのは、職業人生を生産的で創造的なものにする方法です。リモートワークを上手く機能させるためのさまざまな方法論が求められています。
- いまや多くの人が在宅勤務のメリットを享受し、オフィスで働かなくても、生産性が下がらないことに気付きました。この経験はコロナ過という惨事にあって、不幸中の幸いと言ってもいいくらい、私たちにとってポジティブな経験となりました。P107
- かつてのように人生は単線ではありません。マルチステージに向けて、多くの人が自分の未来に投資をする意識を強めています。デジタルスキルを習得したり、オンライン学習を始めたり、生涯にわたって何かを学ぶことが大切です。P116
- 企業はこれからますます若い人材の確保に苦労するようになります。ですから、いつまでも新卒一括採用にこだわらず、入社年齢を多様化させるべきでしょう。これは人材の多様化につながり、働き手の人生をマルチステージ化することも促進します。P121
- また、企業のみならず親の世代も意識の改革が必要だと思います。日本で20代、30代の若者と話すと、彼らの親は子供たちに早く大企業に就職してほしいと願っているそうです。その気持もわからないではありませんが、親が子供にできるのは長い人生を幸せに暮らしていけるように準備をサポートすることです。大企業への就職を急かすのではなく、もっと長い目で見て、彼らがマルチステージの人生を築いていけるように、見守ってあげるべきでしょう。121
- 働き続けることが健康長寿につながることを示唆するデータもあります。アメリカで1992年から2010年に引退した約3000人を対象に調査した研究結果があります。引退した年齢(65歳、67歳、70歳、72歳)ごとに死亡率の推移を調べたところ、引退年齢が高い人ほど、長生きする傾向が見られたのです。P123
第5章 未来の都市は「第三の場所」を求める リチャード・フロリダ 小路口欣弘
■「コロナクレイジー」
- 新型コロナウイルスは社会にさまざまな影響を及ぼしていますが、そのなかでもサプライズは、リモートワークが爆発的に普及したことです。パンデミックの結果生じた最大の変化の一つと言えるでしょう。129
- このパンデミックになってから日本では孤独感を抱えた人が急増し、特に女性の自殺者が急増していると聞いています。これには、リモートワークやソーシャルディスタンシングによって、人の精神にとって何か重要なものが失われてしまったことが関係しているのではないでしょうか。130
■都市とは人々がつながるための場所
- アメリカではすべてのものが以前の状態に戻ってきました。2021年7月にミッドタウンに行ったとき、レストランの予約が取れないほどで、大行列ができていました。その光景を見て、私は大都市の中心部の真の機能は、仕事をするオフィスではなく、人と人のつながりの場であることだと痛感しました。133
- その一方で戻ってきていない唯一のものがオフィスで仕事をすることです。具体的な要因はわかりませんが、ニューヨークではオフィスに戻ってきた社員の割合が20%にも満たないというのです。こうして見ると都市がクリエイティブ・クラスのような知的労働者が働くために集まっているという分析は一面的であったと言えそうです。134
■若い世代にはオフィスが必要
- 例外はあります。キャリアを歩み始めたばかりの新人は、多くの人に直接会って、人脈を作りたいと思っています。彼らは子どももいないし、郊外に広い部屋を借りられるほど経済的な余裕がありません。だから、若い世代が多く働いているアメリカのテクノロジー企業は、大都市にビルを建てています。134
- 誰でも新人時代からリモートワーカーになれるわけではないということです。キャリアを重ねて専門的能力を身に付け、そのスキルに対する需要が出てくることで、自分の影響力が強くなるのです。そうするとリモートワークができるようになります。136
■「第三の場所とは何か」
- 私はこれまで「第三の場所」という概念を提唱してきました。「第一の場所」を住む場所、「第二の場所」を働く場所だとすると、「第三の場所」とは、人と人がつながる場所のことです。147
- これまで大都市のカギとなってきたのは、生活する場所と働く場所であり、「第三の場所」の役割は最小限にしか評価されませんでした。知的労働者たちで成り立つ都市では将来的にこの「第三の場所」が極めて重要なスペースになってきます。148
■未来の工場
- 資本主義の現段階は、情報化が進んでかなり都市化していますが、未来の工場とはトヨタのような工場ではありません。未来の工場とは「都市と第三の場所」です。「第三の場所」を多く備えた都市と言ったほうがいいかもしれません。この点はまだ多くの人が理解していないようです。高度に情報化された資本主義の次の段階において、人々をまとめるものはコミュニティなのです。149
■日本人による新しいオフィス
- パンデミックによって新しい種類のオフィスが生み出されています。こうした潮流は、日本人が誰よりもわかっているはずです。かつては日本人がアメリカの汚くて非人間的な工場を見て「我々はクリーンな工場を作って、従業員がチームの一員と感じられるような場所にしよう」と考え、従業員を単なる労働者ではなく人間として扱う「新しい工場」を作ったのですから。新しい種類のオフィスを生み出すことに長けているのは、まさに日本人でしょう。153
第7章 コロナ後の「Gゼロの世界」 濱田 渉
■中国はオミクロン株に勝てない
- 2022年の状況は一変するでしょう。なぜなら、オミクロン株の感染力は今までの変異株よりはるかに高いからです。中国が開発したワクチンでは感染防止効果が乏しく、オミクロン株の感染を防ぐことはできません。186
- 中国は世界第2位の経済大国であり、世界の経済活動において中核的なサプライチェーン(供給網)を担っています。オミクロン株によって中国経済の流れが止まってしまえば、供給不足からのインフレも懸念されますし、世界に大混乱を引き起こすでしょう。p187
■「Gゼロ」おけるパンデミック
- これまでの私たちは有効なワクチンを世界中に供給することができませんでした。各国がバラバラに出入国制限を取るなどしたのは、国際社会が協調できず、ワクチンが平等に行き渡らなかったからであります。これは国際間の協調を主導する国が存在しない「Gゼロ」という状況が変化していないからです。P188
■習近平の狙い
- 2022年秋の中国共産党全国代表大会で3期目を迎えようとしている習近平国家主席ですが、毛沢東以来、中国共産党で最もパワフルな指導者となりました。権力の基礎固めも順調に進み、彼が任命する部下たちは、ますます彼の信奉者になっています。2021年の9月から中国では小学校から大学まで、「習近平思想」が必須科目として教えられているのですから、驚くばかりです。権力集中の結果、習氏がさらに危険なリーダーになる可能性は否定できません。P191
■国際社会における中国のミス
- EUは中国と包括的投資協定を結ぶことで合意していたのですが、中国の国際法を無視した報復措置に反発した欧州議会は、投資協定の批准手続きを凍結してしまいました。これは明らかに中国にとってマイナスです。P195
- イタリアのドラギ首相は、中国の「一帯一路構想」への参加について見直すと発言しました。イタリアはG7の中で最初に参加を表明していた国だっただけに、中国にとっては、これも大きな誤算でした。P195
- オーストラリアとも貿易戦争を繰り広げています。オーストラリア政府が5Gのネットワーク構想事業からファーウェイを締め出したことをきっかけに、中国は石炭、ワイン、牛肉など、オーストラリアから輸入品に高率の関税をかけるなどの無限措置を実施します。P195
■日本の抱えるリスク
- 米中冷戦に陥れば、日本は大変苦しい立場に追い込まれます。5G通信システム、インターネットなどのテクノロジー関係や、貿易など、米中の間で板挟みになってしまいます。P197
- 日本はアメリカ側につく以外の選択肢はありません。歴史的、民族的、経済的など、さまざまな理由から日本と中国はお互いを信用できないでしょう。さらに日本の安全保障を担保しているのはアメリカです。その状況が近い将来に変化することは考えにくいでしょう。P198