脳力開発135号 和道と覇道・世界は覇道国同志の対立激化
オバマ大統領からトランプ大統領に変わってから、アメリカ国内はもとよりヨーロッパではトランプ大統領に関しての様々情報が行き交うようになっている。トランプに関する記事はCNN、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストの記事の焼き直しだから、日本には実際のアメリカの実態が伝わってこない。トランプについての評価は、日本の新聞メディアからは現状はつかめない。識者と言われる人間も多くは「木をみて森を見ず」の例えどおり、部分情報についてあれこれ言うが、誰も本質的なことからは遠い。最近の中国・ファーウエィに関する記事も鵜呑みにはできない。今回は私達が学んできた思考の原則に戻って考えてみる。
その一、和道と覇道
- 歴史を振り返ってみると長らく覇道時代が続いてきた。人々は物心ついたころから優勝劣敗の競争コースに乗せられ、成功者は人生の勝利者と表現され、単純に考えれば競争に勝った人である。企業社会でも競争が激しく「生き残り戦略」が喧伝されている。「厳しい競争社会をいかに勝ち抜くは普通のように考えられてきた。
- 聖徳太子がとなえた「和を以て貴しとなす」に遡るまでもなく、日本は「和」の実践学が文化として根付いてきた。しかし明治維新を契機に欧米の覇道パラダイムの下で発達した文化が流入してきた。さらに第二次大戦後の米国追従で一団とこの「和」の文化遺産は影を失ってきた。
- 私達は脱覇道を目指し覇道型経営から進化した和道経営を実践してきた。そしてその基本になる理念型経営を実践する過程で理念を土台とした和道経営を実践している。
以下、覇道と和道の比較をしながら分析してみる。
覇道と和道の比較
[目的]
覇道は、天下の支配(勝ち残り)を目的とする。
和道は、永続的・安定的な平和秩序の確立を目的とする。
[達成過程]
覇道は、「敵」の制圧・征服を通じて目的達成を目指す。
和道は、互恵関係の拡大発展を通じて目的達成を目指す。
[方法]
覇道は、権謀術数を駆使して優位を追求する。戦略(覇略)を追究。
和道は、身辺に和を築き、それを飛び火的に拡大する。和略追究。
[収束観]
覇道は、一生他滅をもって収束安定とする。
和道は、全体和合をもって収束安定とする。
[行動原則]
覇道は、異質排除、自盛他衰を行動原則とする。
和道は、異質共存、互恵共栄を行動原則とする。
- 近々の世界は中国と米国の貿易戦争が巷間の話題である。中国は正に次の覇者を目指して米国に対立している。米国は第二次世界大戦後覇権国として世界に君臨してきた。しかし、物事は永久に覇権国であり続けることはあり得ない。それは第二次大戦までの世界の歴史を振り返ってみれば明らかだ。
- 覇権国米国はその後、覇権を維持するために膨大な経費を負担していた。その負担に耐えきれなくなった時に、中国が米国の隙をついて軍事力を拡大してきた。南シナ海に七つ人工島を造成し軍事基地にするなど秩序を無視して、国際法をゴミとうそぶいて軍事侵略行動を続けている中国に関して、いよいよアジア諸国ばかりか世界の眼がかつてないほどに厳しくなった。
- 冒頭述べたように覇道時代は十二世紀(ルネスサンス)から延々と続いてきた訳で優勝劣敗は生物の世界でも普遍性をもって信じられてきた。白人中心の世界は正に文字通り覇道的な競争を続けてきた。従って世界は今でも覇道時代の価値観に染まっている。
その二、米国の中国に対する基本姿勢
2018年10月4日ペンス副大統領は米シンクタンク・ハドソン研究所で約50分にわたって対中国政策について演説を行い、中国による国際秩序の破壊を見過ごしてきた日々を「終わりにする」との決意を表明した。
この演説は第二次世界大戦後、当時の英国首相チャーチルによる冷戦の始まりを告げる「鉄のカーテン演説」に譬えられ、トランプ政権の「対中ドクトリン」とも表される。
全文を読まれた方は殆どないだろうが、勉強会ではほぼ全文13ページを読了した上でいろいろ和談をすることにしている。骨格をまとめると以下のようになる。
- 中国は米国国難政策や政治活動に干渉してきた。
- 一九四九年共産党が政権を担当するまで、米国は蒋介石・中華民国を永年支援してきた。
- ニクソン・キッシンジャーによる日米共同声明後、多大な投資を中国にしてきた。
- しかし、共産党は「メイド・イン・チャイナ」計画を通じて大規模な窃盗をしてきた。
- 今や、中国は経済的な攻撃を選択し、他方、類を見ない監視国家を築いた。
- 宗教を弾圧し、チヴェット、ウイグル人を弾圧し思想改造を行っている。
- アジア、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリに対して「借金漬け外交」をしている。
- アメリカは更なる関税を課す可能性をもっている(用意がある)。
- 中間選挙にも介入、地元紙への有害PR記事を掲載しプロパガンダ放送も流してきた。
- ハリウッド映画にもあれこれ干渉している。
- 学問、言論の自由を破壊している。中国からの資金提供などで標的にされている。
- 中国の悪行を引き続き暴露していく方針だ。
骨子を書いたが、副大統領の演説は、文字通り縷々詳細に認めている。これがアメリカの中国に対する基本方針で、今後はこれをベースに中国に対して戦略をたて具体的に進めるであろうことは明白だ。このアメリカの対中戦略を頭に入れておかないと到底現状から将来に賭けては見通しできないであろう。覇道国家同志の対決を承知しておく必要がある。
その三、AI監視社会・中国の恐怖
- 先月、深セン・ハイテクフェアを視察してきたが、その前に見える現象の裏にはこの技術の国家的な活用の仕方がある。中国はかつてのシリコンバレーやWCCFを主宰した民主主義国家アメリカではない。開催は共産主義国家である中国で、企業経営に対しては強烈な統制や国家の企業支配が強制され、要請される。その国家の強制力を無視できないのが中国である。単に、技術力だけで評価することができない。
- そのことが、アメリカ・カナダやオーストラリア、ニュージランド、欧米、日本を含めてのファーウェイの事件である。この事件の前から、中国に対して次のように見ている識者が存在する。中国の現状を違った角度から見ている。
中国は今、AI技術で米国を凌ぐ勢いにある。
- 連邦議会もメディアも、中国への嫌悪のレベルをはるかに超えて、「反中」ムード。
- 共和党、民主党もこぞって「反国を叩きつぶせ」という極論も登場している。
- オバマ前政権までの中国妥協路線時代には考えられない「反中」という政治環境である。
- 10月4日のペンス副大統領の発表が米国の意志を明示している。
中国の実状
第一・中国の社会的矛盾の深化 不平等の恒久化
- 2018年7月から頻発する労働争議に、北京大学や清華大学の学生が応援している。
第二・中国の外向的難題が一向に解決されない
- 中国は金で縛って台湾との国交断絶を主導している。
- 米国は台湾旅行法を制定して台湾を擁護している。
- 軍事力と外貨をバックに脅迫敵外交、中国圏拡大にきしみが出ている。
- 一帯一路の矛盾・蹉跌があからさまになっている。
- 2018年マハティール首相のシルクロード・プロジェクトを中止した。
第三・サイバー・パールハーバー警戒せよ
- 国民監視システムのほぼ完成 AI全体主義システムの弱点が露呈。
- 日本は平和目的・経済の効率化・暮らしの向上、どのような職種が省力化されるか、どのような産業分野がどのようになるか明記していない
- 中国は軍事目的への転用を狙っている。
- AIを駆使した顔識別技術で既に一万人の犯罪者を逮捕した。
- 北京・中関村「北京こう視科技」視察で犯人逮捕の効率を教えられた。
- ウイグルの民族浄化、ムスリムへの弾圧強化、人権無視、顔認識、声紋のデジタル統制に国際非難が起こっている。
第四・中国の経済的破綻が近いという不安の増大
- 不動産投機、シャドー・バンキング、理財商品、ヤミ金融、ネット上のP2Pという貸し金業者。習近平の登場が減り李克強の記事が登場し始めた。
- 一人っ子政策をやめてかえって出生率が低下前年より六十四万人減少している。
- 中国が始めるサイバー・パールハーバーに警戒せよ
- AI技術 2018年顔認証カメラ5700万台出荷60%が中国。
- 中国のビッグデーターは国民を見張っている。
- ドローンの生産量は世界一、スパコンも演算技術で世界一、5G開発でも世界の最先端
- 次世代量子コンピューター開発も世界一を狙っている。
- 清華大学2018年報告では2013年から2018年までの累計で世界市場の60%寡占。
このことは先日深セン・ハイテクフェアを視察して漠然とした不安として、中国の技術が様々な分野で突出してきた現状とそれに伴う企業の事人件費減少とは別の問題が浮かび上がってきた。(悦司)
理念探究135号 理念企業の環境整備・そうじの力
十二月鯖江での理念探究会の最中、理念制定企業メガネのフレームを専門とする印刷会社(有)ファインの見学会があった。MKDメンバー八名で参加した。社長の藤井高大氏は鯖江若手経営者が学んでいるMKD(未来対応型経営塾)の塾頭をやっている。
藤井社長は二〇〇二年創業、社員は彼がバスケットボールを学生時代からやっていたことがあって、創業当時から社員バスケットボールで共に汗を流したメンバーが中心で取り組んでいる。まるで、パタゴニア(登山用具から始まったスポーツ関係の会社)の創業に似ていると思った。
創業一〇年まで右肩上がりで文字通り順風満帆の時代を過ごしていた。が、振り返るとそのころ、企業の転換期を迎えていたようだ。次のステージを目指し倫理法人会でMKDの村上塾長にも出会い、「そうじの力」主宰の小早祥一郎氏にも出会った。そして以来約八年にわたって環境整備に取り組んでいる。
「そうじの力」社長小早祥一郎氏
小早祥一郎氏は私の主宰する次世代型経営者養成塾の第一期生であった。かつては今話題の日産に勤めていた。優秀な社員であったが、今話題のカルロスゴーンが社長として赴任する前に意あって退社した。
その後、縁あって養成塾第一期生として八名の塾生として和道経営を学びながら、二年後養成塾を卒塾、理念探究にすすみ理念を制定し「そうじの力」を創業した。その間、養成塾の講師の役も永年勤めてもらった。当時の第一期生は現在すべて社長に就任し活躍している。彼の活躍ぶりは「そうじの力」で検索願いたい。
ファイン社長・藤井高大氏
藤井氏は小早氏の紹介もあって環境整備に取り組まれる一方、並行して茨城まで足を運ばれながら理念探究にも取り組まれ二〇一六年に企業理念を制定された。
環境整備に取り組まれ始めて八年になるが、数年前ファインの企業研修、企業見学をした。二〇一六年には企業理念制定式も開催したから、知らないわけではない。しかし今回訪問して本当に驚いた。会社が全く変わっている訳だ。文字通りここまで変わるということは今まで経験したことがない。小早氏の指導されている会社の変化、成果は毎月の小早氏のレポートと添付される動画で拝見しているのだが。
日本を美しくする会
環境整備については「日本を美しくする会」発祥の地岐阜県恵那市の東海神栄電子工業の社長田中義人氏(今年一〇月一日社長交代された)とのご縁が古くからあって田中氏が平成三年十一月に鍵山秀三郎氏に出会ってからの掃除道に生きる実践を垣間見てきた。何年にもわたって東海神栄電子工業を手本にして私の関わる経営者の人達、社員と視察と体験をして学んできた。
それまでは目標とする企業を視察し経営者に会い学ぶというスタイルだった。が今回改めて「企業が『そうじの力』によって変化成長する」ことを体感しました。
ファインの報告
一時から四時までのスケジュールで、社員(今回は工場長坂下氏)のプロジェクターを使っての説明。ビフォアーとアフターがあるわけで、非常に分かりやすい。格段の変化を認識させてくれる。一時間賭けて社内、職場の案内があった。各部署の説明も分かりやすい。以前の仕事の状況・環境と変化している今を担当者が説明する。それだけではなく視察場所を見学者が見落とすことがないように楽しみながらチェックできるように案内チラシもつくっている。しかも使った資料、台帳をもとに戻すということにも工夫がある。ビジュアルにして具体的には漫画や自分の好きなタレントの写真を資料の背表紙に使っている。
率直な感想で言えば一人一人が工夫している。仕事に関わる環境を働きやすいのみならず美しく整えている。楽しんでいる雰囲気が伝わって来る。現場に行くとよく分かる。
小早氏の報告
その後、小早氏による「そうじの力」の報告があった。共通することは環境が整えられる、綺麗になるということではない。それは当然として働く社員、勿論社長が変化する。ファイン社長藤井さんは「社員みんなの意識が前向きに、そして明るく変化し、社内にまとまりができてきた」埼玉県K社の社長は「売上目標に対して野一色・数字が足りないとみんなで支援していこうという意識が芽生えた」という。
私も存じている島根県・石見交通の社長は「若手社員の成長に、10年先の明るいビジョンが見えた!」断言される。みなさんも御存じの香川県・西村ジョイの社長は「6000坪級のホームセンターで3店舗が『倉庫在庫のゼロ化』を実現させたという。この業界では『倉庫在庫がゼロ』不良在庫がないということです。この業界ではまずありえないことだと思います」言われている。
理念企業「ファイン」と理念企業「そうじの力」の互恵関係
ここまで、会社の美観も社員も変化しているとは思わなかった。私は小早氏に、いや見事に変化するものだ。と伝えた。すると小早氏はいくらでも変化するもですよ。と藤井さんともども胸を張った。感服した。
いままで掃除を継続している企業に毎回新たな変化を感じることはない。理念を制定し、理念浸透のためにいろいろ手立てを講じる。人を変化させることは正直言うと容易ではな。
人を変えることは基本的にはできない。どんな指示命令も、計画目標もきめても、役割責任を決めても、どんな規則規制をつくっても、どんな約束をさせても、どんな正義正論を教え、垂れても根本的にはできない。他動的に人間を変えることはできない。
社長が変わる、社員が変わる、会社が変わる
私の恩師「脳力開発」の創始者・城野宏先生はこのことに関してこう言われている。「自分が変わる」「周りが変わる」「他人が変わる」という。まず取り組む推進者が変わる。小早さんは「そうじの力」を始める前に推進者は社長だという。社長が推進役にならないと環境整備に取り組む会社も劇的な変化はない。だから環境整備「そうじの力」の導入にあたって、「社長の本気度」を挙げる。
上記に挙げた企業は見事にトップが率先して取り組み、結果を出している。今回視察したファインと「そうじの力」はまさにその実例だ。上記の企業は創業者やあるいは経営者が「使命観」「志」をしっかりともっている。そして明確な何のためにという一、目的、二、社長の本気度、三、強制ではなく楽しみながら取り組んできた結果が、素晴らしい結果を生み出している。換言すれば、利益を優先させる、利益を上げることが最優先の企業では環境整備も定着することはない。「そうじの力」は、企業を変える力があることを体感したファイン環境整備見学会だった。
(悦司)