理念探究会89

■経営者と社員の違い
来期の経営方針、計画立案の熟考会を一月末から二月にかけて複数回開催している。私もかつては会社に勤めていた。自分では頑張っていると思っていたし、営業成績もトップクラスにあった。全力を尽くしていると自覚していた。創業してみて確かに全力を尽くしていると思っていたが、経営者と社員では取り組み姿勢に雲泥の差があることを体感した。
自力で飛ぶ人、経営者は多方面に目を向けリスクも背負わなければならない。社員は指揮官に従って飛べばよい。自力で飛ぶリスクもない。この企業に囲い込まれた人の仕組みを家畜に例えて社畜という。ひどい言い方だと思うが、しかしその通りだ。
企業理念を求心力にして自立連帯型企業運営を進めてきたのだが,それは規模に関わらず社長を育てることだ。自産階層を増やす仕組みだ。ある会社で世代交代をして役員である専務を世代交替で社長に昇格してもらった。社長に就任した途端に会社の全責任を担う自覚が、様々な問題への主体的な解決につながった。社長はどんな問題も他人事にできない。これが真の転原自在の好例だ。
■生産力と購買力の逆転
数年前から世界的に生産力が購買力を上回った。先進国では当たり前だが。このことは少し極端な表現になるが、販売予想はあたることがないということであり、販売量を予想して作っても必ず余るということ、在庫が過多になるということだ。産業革命以来の大量生産大量販売の仕組みが崩壊したということだ。
恵那銀の森では第一工場はお節料理を作っている。全てが受注生産で、年末に向けて冷凍お節を作っている。ここのお節の品質と味は高い評価がある。四年前から銀の森の敷地に新しい業態を展開した。それぞれが個別の店舗を構え製造販売をしている。そして今回社長は不良在庫、破棄商品を生み出さないために、全ての部門で受注生産をするべく生産方法を変えることに取り組みだした。今までの予想に基づく生産態勢から新たな受注生産態勢へのチャレンジだ。この方法が確立されたら新規事業も一挙に回復されるだろう。

■西洋的経営(ゲゼルシャフト的経営)と日本的経営(ゲマインシャフト的経営)
経営者に「企業の目的は何でしょうか?」と問うたとする。なんと応えるであろうか?多くの経営者は利益を上げなくてはならないと考えている。利益指向が一般的に言えば多い。企業の目指す姿勢は大きく五つのタイプに分けることかできるのではないだろうか?
一、売上を上げる事が何よりも大事である、成長なくして経営とは言えないという経営者(うりつけ屋=売上指向)。
二、利益を上げることが第一であるという経営者(もうけ屋=利益指向)と呼ぶ事ができる。社員やその家族を養うためにも利益あげつづけけることが必要だと答える。
三、ある経営者は企業が続くことが大事でそのためには資産を増やすことだ。(ためこみ屋=資産指向)
四、企業は社会に役立つためにも存続しなければならない、ゴーイング・コンサーン(存続する。継続する)こそ大事だという。(ながもち屋=存続指向)他にはないだろうか?と考えてみると
五、役に立つことが目的だ。(役立ち屋=目的指向)という経営者もいる。

■西洋的経営・利益最大化の弊害
新年になって激動する世界情勢を見たとき、一派的に経済誌は業績のよい会社を取り上げ、何故この会社は業績がよいのかと分析して、評価している。しかし現実には売上指向のうりつけ屋さんも利益指向のもうけ屋さんも順調ではない。もともと、欧米式の会社組織は典型的なゲゼルシャフト(機能や利益で集まった社会)だから業績が上がらなければ人員を減らすとか合理化を図って、ますます働き口が少なくなる。
経営者の大半はこの利益最大化の価値観を最優先させている。
マクドナルドを2004年社長就任以来、八年間増収増益を続けて数年前ベネッセに変わって取りわけ優秀な経営者として評判の高かった経営者原田泳幸氏などはその一番の例になる。利益最大化、増収増益の陰で社員やパートに非常に理不尽なことを押しつけ、挙げ句の果てに中国での鶏肉事件を起こし、交代した外人社長になってからは三年連続売上を減少、先日の決算予測では大幅赤字転落を招いている。「社員は失
業することを恐れ、社蓄」としての仕事に甘んじる環境からは抜け出せない。その他ブラック企業と世間から糾弾される企業には働く社員の疲弊がある。
■日本的経営(ゲマインシャフト的経営)
海賊と呼ばれた男・出光佐三氏の「日本人にかえれ」を改めて読んでいる。奴隷解放というテーマの中で
一、黄金の奴隷となるな。事業は金儲けではない。
二、学問の奴隷となるな。現代の世相は学問とか知識とかに依頼心をもって、肝腎の人間を忘れている。理論の奴隷となるのではなく人としての修養、鍛練を続けよ。実行の尊厳を重視する。
三、組織、機構の奴隷となるな。人を管理する必要はない。人間が自ら立派な人間になれという。
四、権力の奴隷となるな。別の意味で政府に頼るなと。
五、数、理論の奴隷となるな。理屈を排し人間の判断を尊重、少数精鋭を目指す。
六、主義の奴隷となるな。資本主義、社会主義、共産主義に偏るな。
この分配論の前に日本には衣食足りていればよいという教えがある。
七、モラルの奴隷となるな。モラルと道徳は違う。モラルは法律、組織、規則といった紙に書いたものを守る事がモラルであり、日本の道徳はお互いに仲良く暮らすために人間の真心から自然に湧き出たものだという。
西洋の利益中心の経営のあり方に対して痛烈に反対している。私が社会人になって五年、勉強仲間と読書会で「日本人にかえれ」をテキストして取り上げた。企業のあり方を考え始めた時に出逢った本だった。
「人間尊重五〇年」なども取り上げた。
「海賊と呼ばれた男」を読んだ後、彼の「私の資本主義」「マルクスが日本に生まれていたら」も読んだのだ。そして改めて「日本人にかえれ」を読んでいる。今日の世界情勢の中で、「日本的経営」が見直されている。利益最大化よりも、家族主義的経営(ゲマインシャフト的経営=昔の村落のように地縁・血縁で結びついた社会)の要素が入った経営)が業績優先の時代に改めて提示されている。