◆理念探究会79
■中江藤樹の生誕地滋賀県高島・安曇川町
四月、次世代型経営者養成塾で学んだ人達を中心に、ご縁のある人達と中江藤樹の生誕の 地、滋賀県安曇川と式年遷宮を終えた伊勢神宮を訪ねる旅を企画した。私たち夫婦を含め て総勢十九名。数年前、有志とビジョン策定研修のとき、安曇川に宿をとり中江藤樹を訪 ねた。戦争中も含めてかつて一度も藤樹祭(命日の九月二五日)は途絶えたことがない。 今回、中江藤樹記念館の元館長で著書も沢山お書きの中江彰先生に記念館をお借りして 「人人(にんにん)の心に宝あり」というテーマで講話を頂いた。そのあと史跡見学で陽 明園、藤樹書院、藤樹先生墓所、藤樹書院跡を先生の解説でご案内頂いた。進化経営学院 の養成塾ではテキストにしている森信三先生の幻の講話の中で江戸時代の碩学を上げられ、 その第一に中江藤樹先生を上げられている。そのこともあって、今回の旅を企画した。 中江彰氏著書の「中江藤樹人生百訓」の中で「至徳要道という最高の宝」の項で「この宝 は上天道に通じ、下四海に明らかなるもの也。しかるゆえに、この宝をもちいて、五倫に まじわりぬれば、五倫(父子の親,君臣の義,夫婦の別,長幼の序,朋友の信)みな和睦 して、うらみなし」と解説されている。今回講話の中で「明徳は人の本心、天の人の与え し所以(ゆえん)にして、人の得て、もって万物の霊なるものなり」も、「人人の心にあ る宝」この世に私たちが生まれてきた天命=使命=理念があることを中江藤樹は語ってい る。この理念に添って生きることが天の与えた使命であると。 この旅も座学のみならず、碩学の生まれし地を訪ね深い解説を頂いたことで、参加者への 理念の探究の一助になったことと確信している。
■構想博物館・館長望月照彦先生を訪ねる
昨年秋、Mランド五〇周年の会での記念講演をされた、多摩大学教授望月照彦先生を訪ね て鎌倉に構想博物館を訪問した。五〇周年の講演の後、パーティーがあってその会が始ま る前に同じテーブルだったこともあってご挨拶がてら、講演の中での感想を述べて、丁度 古希の記念に出版した「理念の時代を生きる」と「森のフォーチャの暮らし」を差し上げ た。私たちの生き方とある種の共通の匂いを感じて読んでいただけるのではないか?と感 じたからだ。 講演は尊敬する小河会長の考えを深く理解され、概念化(コンセプト)され、さらにM ランドの未来構想を提言されていました。さすがにと感嘆しました。翌日、小河会長とお 話をしながら草柳大蔵氏と望月先生がMランドにこられた切っ掛け等をお聞きしました。 帰宅して、私が小冊子化した小河会長の「質実経営」と善子の「こころ動かされた光景」 をお送りしました。数日後、望月先生から一冊の最新の著書「希望と幸せを創造する社会 へ」をお送りいただき、私達の本の感想も認めてくださり、またお話をする機会を持ちた いものですとご丁寧なお手紙を頂きました。本を送って下さったお礼状に是非お会いした いと記しました。 すぐ読み込んで先生の本の意図に大いに共感した。直ちに望月先生の著書を購入して数 冊読んだ。「地域がよみがえるとき」「旅と構想」等。また、氏が薦められる草柳大蔵氏 の「山河に芸術あり」を読み、続けて著書を数冊求め読んだ。これまた新しい出会いであ った。日本人として生きる草柳大蔵氏の生き方に。
■多摩大学から構想博物館
多摩大学は二五年ほど前、野田一夫氏や21世紀型中小企業等で著名な中村秀一郎氏が 中心になって創った大学で、「多摩大学の創立以来の理念は、国際性、学際性、実際性の 三つのキーワードで表現されている」。この建学の精神にいたく共感し丁度そのころ息子 たちもソロソロ大学受験を迎えるころだったこともあって、こういう大学に進学するとい いのにという想いが私の脳裏をよぎったのを思い出す。 二〇周年を迎えて 多摩大学は開学以来「実学」を標傍してきたが、研究機関であるより も教育機関でることを重視した教育・研究、時代の最先端を走る産業界で活躍した人材の 教壇への多数の登用など大学の最大の特色は一貫して実践してきた「実学教育」にある。 この実学教育をさらに深化させ新しい時代の実学を「今を生きる時代についての認識を深 め、課題解決能力を高めること」と再定義し、大学の教育理念を「現代の志塾」と定め、 教育・研究・社会貢献の全分野においての共通の考え方とした。(中略)志の失われた時 代に、幕末の松下村塾(吉田松陰)、適々斎塾(緒方洪庵)、 威宜園(広瀬淡窓)など志 の高い有為の人材を輩出した私塾の現代版を目指す。と深化している。 望月先生の著書には、日本各地の街づくり、再発見などがゼミの学生共々取り組まれた 実践録が認められている。しかもそれが継続して実践的に進行している。また、時に奥様 とパリに長期滞在される時のエピソードを交えながら先生の深い視点を垣間見ることがで きる。(詳しくは先生の著書に目を通していただきたい) お約束した三月の下旬、鎌倉の構想博物館を訪ねた。極楽寺駅に赤いセーターを着た先 生が迎えてくださった。道々、鎌倉に何故居を構えたのか等お話をお聞きしながら車も通 らない突き当たりの道を上がると、ご自宅兼構想博物館に到着した。
■構想博物館とは 構想とは何か。
簡潔にいえば「物事を考え、発想し、組み立て、実践し、そのことが人類 社会に役立つこと」です。人類の歴史とは、その意味において構想によって生み出された と考えられます。すなわち、火を熾すこと、道具を使うことから始まり、社会制度も農業 も、産業も、テーマパークも、そして平和な世界も、構想がなくして生まれることはあり ません。 そしてそれらの構想の質(哲学)が、社会やコミュニティの質を決めてしまう ということも、また近年の諸事実が明らかにしています。したがって、よりよい構想を生 み出すことに役立ち、貢献することが、構想博物館の目的であるといえるでしょう」とH Pに書かれている。 書斎での相互インタビューのように黒田さん「何故、理念探究というところに行き着いた のですか?」という質問に答えながら話は弾んだ。多磨大学教授になられるまでの経緯、 渋谷パルコをめぐる堤清二と同級生増田通二を囲んでの出店までの経緯、当時最年少だっ た望月青年がパルコ出店を通じて集中的に鍛えられたというお話、野田一夫と中村秀一郎 との出会い。当時、三〇代前半の私自身が名古屋から東京に転勤になり、担当地域が渋谷 パルコの近くのオーディオ店やコロムビア・ライブハウス「エッグマン」等の様子を思い 出し、一気に若い仕事に熱中していた日々が蘇ってきた。青年望月氏は正にパルコが時代 を開いた当時の当事者であったのだ。そのあと、書斎から続いている秘密の部屋に案内し てくださった。ここが正に氏の「知を生み出す場所」「コックピットのように六角形の部 屋」そして「尖塔」、まさに知の香り溢れる部屋だった。 その後、午後のお茶ハイ・ティー(high tea )を楽しんだ。藤田嗣治の素描きの飾られた 白い部屋で奥様・香菜さんのセッテイングしてくださったテーブルを囲んで、大振りの鎌 倉彫りの木皿に盛られたケーキやチョコレートを楽しんだ。二時間あまりのお茶の時間も あっと言う間に過ぎてしました。鎌倉からの帰り、江ノ電に中でしばし、善子は奥様の穏 やかな中のさりげない会話、望月先生ご夫妻の生き方、旅の仕方などまた書斎とは異なっ た話、フランスでの逸話をお聞きし心の和む一時だったと楽しそう語った。
■経営計画発表会
企業理念制定して十年のときが流れた
三月末、中谷石材グループの第五十四期経営計画発表会がおこなわれた。中谷社長は十年 の時を振り返りその間、企業改革から始まり、財務体質の改善(無借金経営の実現)環境 整備への取り組み、自立連帯企業運営と理念実現に向けて取り組んできた。理念制定前と 理念制定後を謙虚に振り返りながら、理念をベースにした経営計画から方針、方策への具 体化を続けてきたからこそ、ぶれることのない業務活動を続けてこれたこと、この転換期 を更に強固な連帯基盤を確立して持続的成長を目指して厳しい大海原に大きく船出してい きたいと話された。 話は前後するが、昨年の秋ごろ食品虚偽問題が世間を騒がせ、阪神阪急ホテルズ、ザ・ リッツカールトン大阪、高島屋などがどさくさに紛れて発表した。各社が弁護士を含めて 第三者委員会を設置して調査報告書を発表したが、当たり障りのない結論でお茶を濁して いるが、世間はそれほど愚かではない。当然業績にも影響が出ているが、日本人は騙すと か嘘をつくことを恥としている民族的な特質がある。虚偽表示の背景には企業理念のない 企業には利益至上主義が企業の擬似理念として巣くっている。顧客の立場に立って物事を 考える姿勢にかけて、結局は社会から必要とされない企業となり、倒産を招くことになる。 グループは今期も第一に環境整備を通じて社会に役立つ自立した人材を育てる事を掲げ て、地域一番の環境整備実践企業を目指す。環境整備のマンネリ化を防ぐ意味からも昨年 「環境整備憲章」を制定した。今年は、日本を美しくする会代表の田中義人氏に指導を仰 ぐことも企画している。田中さんが代表を勤めるナカヤマグループ(東海神栄電子工業・ ナカヤマ理研等)には、ここ数年世界から企業視察にこられる。台湾、ルーマニア、イタ リアそして今年はインドの経営者が来られる。このことは「西洋型経営、利益最大化を求 めた企業」の行き詰まりから、世界にビジネスモデルが見当たらなくなり、振り返ればバ ブルで低迷したと思われていた「日本型経営の企業」がいつのまにか世界の企業の手本と すべきモデルになりつつあるという時代の大きな変化を示していると言えよう。 理念のある企業はまだまだ多くはない。しかし日本の中小企業は創業者が理念的な発意で 起業しているケースが多く、利益追求型の大量生産、大量販売を目指している企業は、い つか恐竜が滅びたように姿を消すこともあり得る。お客様を決して裏切ることなく生きて いくことが日本人としても心しなければならない。地道な活動続ける中に常に創意工夫、 脱皮を続ける企業が役に立つ企業として存在することになる。正に天は見ている。