◆理念探究会77号
■その一 社長の成長が企業の成長
自立連帯型経営の六社の社長を集めての来期の経営方針熟考会と社長会を開催した。岡 山での開催になった。前の会はそれぞれの会社のメンバーも同席した。後半は社長に絞 っての一日半の会。企業理念を求心力にして各社が自立して経営をしている。 二〇一二年の統計によると日本の中小企業・小規模事業者は九九・七%小規模事業者は 三三四万社八六・五%だそうです。一月号で日下公人の「新しい幸福への思索」でサラ リーマンの時代の終焉を提示したが、戦後自営業者の道を選ぶよりも被雇用者(サラリ ーマン)の道を選ぶことが確かに日本の経済的な復興をもたらしたことは論を待たない 。しかし二〇年前バブルがはじけてからは正に、中小企業、小規模事業者がこれからの 時代を生き抜く智慧だと考えている。根本的な要因は「自分の全てを懸けて事業を営ま なくてはならない緊張感=自立心が自己の能力の研鑽を余儀なくする」からだ。自立経 営をしている彼らの経験は三年から八年を迎える。社長にも当然、新人から中堅、そし てベテランと経験と研鑽を積み、しかも各社が互いに切磋琢磨している。 今年四〇歳を迎える彼らの一人が年末の同窓会にでたという。そのときに逸話を話して くれた。学生時代、成績優秀で大手企業に就職した同級生に再会した。あれこれ思いで 話や近況を語る中で、成績のあまり芳しくなかった当人が小さな会社の社長として語る 話を聞いた大企業に勤めている友人は「君とは価値観が違ってきたよ」と言って話しが 終わったという。卒業して約二〇年。成績優秀だった彼は、もちろん企業の中での役を こなしているのだろう。しかし成績はとりわけて芳しくなかった彼は経営の体験、部下 を育てること、将来のビジョン、磨かざるをえない経営能力、人格を身につけた。その 彼の姿を垣間見た時、友人は「君とは価値観か違ってきた」としか言いようがなかった のであろう。厳しい状態にあって自立して役に立とうとする人間には、全力で立ち向か う中に生きている充実感を味わえる楽しみがあるようだ。
■その二 恵那・銀の森の経営方針熟考会
おせちを中心に展開してきた銀しゃり本舗は昨年「銀の森コーポレーション」として社 名変更した。おせちの世界では特色のある展開をしている企業だが、社長の「創業の歴 史と思い」のなかで二〇〇三年から受注型から創注型商品づくりを目指してきた。その 中で二年半前に銀の森としてユニークな展開を目指している。緑に囲まれた広い敷地の 中に日本の伝統の食とヨーロッパの食の展開を進めている。謂わば長い日本の歴史の中 で日本人が経験し融合させてきた西洋文明と日本文明の融合とも言える展開を試行して いる。 此処でも前期から進めてきた店舗毎の自立経営への道を試行している。その店長達との 研修に取り組んだ。三日間の熟考会で初日は経営幹部二日目が店長達との研修、最後が 毎年販売を伸ばしながらここ一〇年で三倍の売上を達成しているおせち事業のリーダー たちの研修だ。各店舗は森の食卓(レストラン)カリテレモン(スイーヅ洋菓子)美栗 舎(栗きんとん・栗菓子)竈(おくど)五節会(おせち・餐飯亭)銀の森ショップがそ れぞれ自立経営を目指して深めている。理念を背景にして各店舗が経営としても自立さ せることは容易ではない。私たちは経営数字(科学)人間性(こころ、思いやり)換言 すれば算盤と道徳(渋沢栄一)の軸の融合をもとめている。これからの経営に携わる若 い人達に探究し続けてほしい世界への確かな旅立ちでもある研修を目指している。
■その三、大家族主義経営
出光佐三の事を書いている「海賊と呼ばれた男」は日本的経営の粋を体現している。こ の本も縁ある若い経営者には薦めている。養成塾参加者には全員に贈り、読んでもらい そしてポイントレーレビューをしてもらった。その後、輪読会では「出光佐三魂の言葉 」を使い、近著「マルクスが日本に生まれたら」「はたらく人の資本主義」も読んでも らっている。今の三〇代の経営者にはマルクスなどはひょっとしたら知らないかもしれ ない。 家族主義経営など言おう物なら「なんとアナクロニズム時代錯誤)な事を」と顰蹙を買 う恐れがないとも言えない。しかし、お世話をしている会社は今年「大家族主義」を宣 言した。社内はもとより協力会社,お客様そしてゆくゆくは地域を巻き込んでファンに なってもらえる企業を目指そうというわけだ。時代は完全に変わった。次の時代は大き くなくてもよい、志のある、地域に支援される企業が最も強靱な企業として存在するだ ろうとこの会社の社長は考えている。「その志やよし」と満腔の敬意を贈りたい。