■理念探究会71 何のための人生でありたいか・志に生きる
久世薫嗣君を訪ねる・第一報
小学生時代近くに住んでいた(岡山県津山市)久世薫嗣君を稚内の近く天塩郡豊富町に訪ねた。正確には五十数年ぶりになる。ここ数年利尻に通い経営合宿をしていると津山高校の友達に話した時、久世君が利尻の近くに住んでいるという話を聞いた。
四十代半ばから、この地に移り酪農を営んでいるという。
大学卒業後関西(西宮・神戸近辺)に住み、後に兵庫の山奥に移り、牛を飼い自給自足の生活その後、北海道に移住したという。
今は酪農とチーズづくりを軌道に乗せ、事業の大半を子息子女に継承し暮らしているという。再会して、温厚な久世君が何故、ここにこうして暮らしているのかを聞きたいと思った。
●現在の家族の生活
七月二十七日礼文を出て稚内港に予定より早くついた。彼は孫を抱いて私達を迎えにきてくれた。最初に息子亮さんが経営している牧場に案内してくれた。現地に立って眺めるが、広さは七十ヘクタールあるという。遥か果ての山の向こうまでだ。この季節、牛は放牧されている。林の向こうに放牧されている牛を写真に納める。
聞くと全頭で九十五頭いるという。息子さんは出かけていた。手書きの看板の牛舎を後に、十五分ぐらい走ってチーズ工房レティエに到着。おいしいジェラードとラクレットチーズを溶かしたパン、ピザそしてコーヒーを頂く。アイスクリームは既に通販で賞味していたが、作りたては
あっさりとしたうまみ。
カフェテリアは不便な場所にあるにもかかわらず次々とお客さまが出入りして、テーブルで食事をする家族づれジェラードをテイクアウトをしていくお客さんが途絶える事はない。夏場は休日なし。カフェテリアは三女あもさん(二十三歳)が担当、チーズづくりは長女歩さん(三十
五歳)。次女阿利さんは近くの農家に嫁いで今回は会えなかった。彼は現在、主に育成牛と肥育牛(ジャージ牛の雄)の管理を行っている。
久世君は孫(あもさんの娘)をあやしながら私の質問に応えてくれる。
質問は思いつくままだった。「何故ここに至ったのか?」と言うことに触れたい。質問しながら、録音器を持参しなかった事を悔いた。
その夜久世さん、歩さんのご主人、あもさん達と焼き肉を囲んだ。ホーエー豚もいただいた。それから鉄分の多い温泉に行った。二日にわたった質問を少し整理して記す。
●大学時代から兵庫の山奥での生活まで
1964年関西学院大学社会学部に入学。1965年学園闘争に参加、社会学部自治会委員長1966年全学部副委員長を務める。学園闘争のテーマは当初、バス代、学費値上げが最大関心事であった。社会学部として取り組んだ。1968年二十四歳で結婚。学園闘争中の仲間と恋愛、結婚する。卒業後、生協活動を続ける。1969年佐藤首相の安保条約改定の訪米に対して、関西学院大学生協地域部のストライキ、職場封鎖を指導。羽田へ集結。逮捕を覚悟していたが、免れる。
(注)佐藤首相訪米阻止闘争は、1969年11月16日~17日に行われた新左翼による闘争・事件。近代日本史上最大の2500人超の逮捕者を出し、1967年から続いた学生運動・新左翼運動の高揚に一つの終止符を打った。(ウィキィペディア)
1970年佐藤訪米阻止闘争に破れ、復帰後、運動のスタンスは左翼からは離脱、中間派へと変わる。地域生協活動に専念する。
仲間の一部は運動を続けるグループもいた。
1971年「いかに生きるべきか」迷いながら関西学院大学生協から身を引き、三重県亀山に移住。絹紡糸経営の社長に会い、経営に関わる勉強をする。西陣帯の原料、繭の外側の糸を紡ぐ。1972年連合赤軍・浅間山事件・学生運動の経験を振り返り強い衝撃を受ける。会社を辞めたいと社長に申し出る。社長に慰留され、年末住居を西宮に移しながら、継続してお世話になり経営することを学んだ。
●食の安全に深く踏み込む・1973年~
食の安全の問題から、農協牛乳の仕事に関わる。淡路島の牛乳を仕入れる。共同購入を企画して顧客を開拓。三年で軌道に乗せる。その後、残留農薬が発見される。子供たちの健康のことを考え、農薬のない牛乳を探す中で、北海道十勝の「よつ葉牛乳」に出会う。当時、道外は販売していなかった。関東近辺までの販売はあったが、関西まで来ると一本五〇〇円になる。口コミで広め芦屋、神戸、西宮・・・と顧客を増やす。
連合体を組織して市販の価格にまで値段を押し下げる。市販の牛乳に頼らないで生活できる。夜の十二時ごろ舞鶴に着く牛乳を神戸に運び、朝五時ごろには配達する。専従と配達の仕事に専念する。
安藤昌益に出会う。直耕志塾の活動を開始する。(注)安藤昌益・江戸時代中期の医者・思想家。身分・階級差別を否定して、全ての者が労働(鍬で直に地面を耕し、築いた田畑で額に汗して働くという「直耕」)に携わるべきであるという、徹底した平等思想を唱えており、著書『自然真営道』にその考えが書かれている。
有機農法で作った物、生産者を見つけるために四年間全国を回る。基本方針として農民として闘っている人と共に進むことを目指した。
1975年次男・亮(あきら)1978年次女・歩(あゆむ)誕生
●自給自足生活を選ぶ・離婚・1982年
兵庫県の山奥への移住のきっかけは、本州での乳牛の飼育方法に限界を感じたことにあった。よつ葉牛乳に出逢い、共同購入を経験したが、よつ葉牛乳が牛の飼育方法を変えた。結局は企業の論理(大量生産、利益追求)により、通年サイレーションに変わり乳量を増やす。結果生産過剰に陥り、ロングライフミルク(長期間保存できる)を打ち出した。
この時点で、自然の中で牛を育て乳を得ることに対しては限界があり自らが農業を一から始める以外に手立てはなかった。
亮の喘息のことや、子供の健康のことなどもあって、都会での生活から脱出すること、動物たちとの生活を考える。妻や子供たちとも幾度も話し合う。妻は、自給自足の生活を志す私の考えを受け入れる事ができず、離婚をする事になった。長男竜、長女かなめ(可名芽)は妻と暮らす事を選択する。今後の生活のことを考え、事業を譲る。当時二万人の顧客がいた。
●子供は意志を持っている
亮は八歳、そして歩は四歳。山奥の集落であったため、学校は遠かった。文字や計算は本で学ぶから大丈夫、学校へはいかず毎日家や牧場の手伝いをしたいと言った。
学校に行かないことに対して、行政からの勧告や周囲の非難など様々な問題があった。自然に囲まれた環境の中で、二人の自立の為にできることをした。自給自足の生活を六年過ごす。子供たちは自らの意志で、学校に行かないで自ら学びながら暮らす。この間、子供たちは嬉々として農作業を手伝ってくれた。
●一人で生きていける人間に育てる
一般の親は子供が学校に行かないことに対しては拒否反応を示す事が考えられる。彼は、子供が学びたいと思えば学校に行かせる。通学が非常に困難な状況なかで通学させる事よりも、子供の自立を支援する決心をしていた。本人が行きたいといえば高校までは支援する。高校に行った子供もいる。いかなかった子供もいる。この背景には自身、浪人の時に父親の死に出会い、自ら体験したことが土台にある。子供の意志を尊重した。
●兵庫県での六年の生活の中で縁あって再婚。1986年阿利(あり)誕生。その間住居が火災全焼。山歩きから帰ってみると家が全焼していた。原因は火の不始末だった。北海道天塩郡酪農の町・豊富に移住。
亮十四歳、歩十一歳、阿利三歳の時「乳牛は草食動物、広い草地に育つ牛の乳が最も自然で健康的だ。しかし本州ではどうしても限界がある。
家族に安全な牛乳を飲ませたいと言う思いが、いつしか北海道で乳牛を飼育したい」という思いに変わり、考え抜いた末に、選んだ移住地は北海道天塩郡酪農の町・豊富だった。
1989年(平成元年)家族五人で北海道の豊富町に移住。
農業をやっていきたいと思っていたが、確たるものはまだなかった。乳牛十四頭、綿羊二頭、鶏九羽と共に入植した。六年間の自給自足の体験が土台になった。
移住当時はまったくお金はなかった。当分の間インデアン・テントで過ごした。役場で古い住宅を払い下げてもらい、解体して家族で牛舎を建てた。釘一本も無駄にしなかった。
今も、カフェテリア、チーズ製造場の後ろに立派に建っている。兵庫県から持ち込んだ牛や綿羊や鶏の世話は子供たちが担当した。自然が好きな三人兄妹は朝早くから夜遅くまで家づくりを手伝った。家族で一生懸命力を合わせ働く姿を遠巻きに見ていた村の人達も、次第に力を貸してくれるようになった。そして入植した五月以降秋には念願の牛舎が完成した。
●入植以来二十四年・人生を楽しみながら生きる
その後、縁あって、離農する人から今の七十ヘクタールの牧場を譲り受け、二〇〇〇年には流通、販売も視野に有志であぐりネット宗谷(有)を立ち上げた。そして自分たちで作ったチーズやジェラードを販売している。この間の経過は、彼の寄稿・著作による記事に詳しく記さ
れている。妻と私はその体験記を読んだ。彼の実践は私達の心を深く捉えた。
今回彼の了解を得て限定して小冊子することにした。親が握り拳ひとつで子供たちを育て上げる姿が、そして広く世界にも目を向ける姿が書かれている。
この親と子供たちは共に生きてきた。再度豊富を訪ねて亮さんやその家族、今回会えなかった阿利さんにもお会いし、子供たちから見た視点も含めてまとめてみたいと思っている。妻は「北の国から」の五郎さんをイメージしながら、五郎さんよりもすばらしいと何度もつぶやいてい
た。彼の生き方を伝える為に配布したい。今回の報告はその第一報です。
■■■注目!トピック■■■
株式会社デリコム 原田社長 (仙台市) がガイアの夜明けに出演しました。
2013年08月20日放送 真夏の自販機戦争!
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